再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№101


彼女が青年に不安をつのらせたのは、よく計算された行動のせいで、たいていの者なら好ましい印象をあたえようするときでも、彼は好感をいだかせる光に照らして自分をみせようとはしなかった。彼が好んだのは、人々が自分の良いところを探しまわることであった。そして自己中心的なところでも出来るだけ空くじをひかせないようにと心をくばった。それが彼という存在にすれば頼みの綱であったからであった。彼はなんとかして注目をひきよせようとした。そして自己本位的でない行動をとることで、うまく注目をひきよせた。支配する者としては、彼に人気があるのももっともであった。だが夫としては、おそらく耐えがたい男だろう。

 The young man added to her perplexities by his deliberate policy of never trying to show himself in a favourable light even when most anxious to impart a favourable impression.  He preferred that people should hunt for his good qualities, and merely took very good care that as far as possible they should never draw blank; even in the matter of selfishness, which was the anchor-sheet of his existence, he contrived to be noted, and justly noted, for doing remarkably unselfish things.  As a ruler he would have been reasonably popular; as a husband he would probably be unendurable.


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№100

彼は政治面で徹底して生意気な言動をとり、皮肉をとばしたが、その陰にひそむ本心がふとした折にあらわれてしまうことがあった。結局、それは極端なまでの成功から自重させることになり、若い頃はすばらしい失敗のひとつにもなった。こうしたこと以外に、コートニー・ヨールの正確な評価を形づくるのは難しかった。そしてエレーヌは、自分がうけた印象をはっきりと整理分類するのが好きだったため、彼の性格や発言の第一印象を細かく調べるのだった。それは美術評論家が当惑しながらも、疑わしいけれど任された絵のニスや傷のしたに、啓示してくれる署名をもとめる姿のようであった。

Behind his careful political flippancy and cynicism one might also detect a certain careless sincerity, which would probably in the long run save him from moderate success, and turn him into one of the brilliant failures of his day.  Beyond this it was difficult to form an exact appreciation of Courtenay Youghal, and Elaine, who liked to have her impressions distinctly labelled and pigeon-holed, was perpetually scrutinising the outer surface of his characteristics and utterances, like a baffled art critic vainly searching beneath the varnish and scratches of a doubtfully assigned picture for an enlightening signature. 


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№99

さらに面白く、彼女の目には緊急の必要性もあるように思えたのは、自分に好意をいだき、関心をよせている二人の青年の人柄について、分析したり評価したりすることであった。こういう事情で、ずいぶん考えたり、いくぶん混乱したりする種があった。ヨールを例にするなら、人間観察についてもっと経験をつんだ者ですら、彼には当惑しただろう。エレーヌは賢明であったから、彼の気取っているところや自己宣伝をダンディズムと取り違えることはなかった。彼は鏡にうつる自分の身なりの具合に心底から喜びを感じつつ、素晴らしい姿に感じ入った。それは視覚にうったえる鑑賞で、手入れの行き届いた、似合いの二頭の馬を見るときのようなものであった。

Even more absorbing, and in her eyes, more urgently necessary, was the task of dissecting and appraising the characters of the two young men who were favouring her with their attentions.  And herein lay cause for much thinking and some perturbation. Youghal, for example, might have baffled a more experienced observer of human nature. Elaine was too clever to confound his dandyism with foppishness or self-advertisement.  He admired his own toilet effect in a mirror from a genuine sense of pleasure in a thing good to look upon, just as he would feel a sensuous appreciation of the sight of a well-bred, well-matched, well-turned-out pair of horses.  


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№98

自分になら買えるものが世界には沢山あると知っているせいで、買うだけの価値のあるものがどれだけあるのか彼女は思いをめぐらすようになった。だんだんと、彼女は自分の心をある種の控訴院として見なすようになり、内々の開廷期間をまえにして、動機や行動について調べたり、判断をくだしたりしていた。とりわけ一般の人々の動機が対象となることが多かった。学校の教室で学んでいた頃、彼女が真面目に判断をくだしていたのは、チャールズやクロムウェル、モンク、ワレンシュタイン、そしてサボナローラを導きもすれば、誤った方向にも導いた動機についてであった。そして今、同じようにして夢中になって調べているのは、外務省で秘書官をしている青年の、政治面での誠意であって、弁舌たくみでありながら、できれば忠実な心をもつ侍女の誠実さがあるかどうか、やさしく甘やかす仲間たちが無私無欲かということだった。

The knowledge that there was so much in the world that she could buy, invited speculation as to how much there was that was worth buying.  Gradually she had come to regard her mind as a sort of appeal court before whose secret sittings were examined and judged the motives and actions, the motives especially, of the world in general.  In her schoolroom days she had sat in conscientious judgment on the motives that guided or misguided Charles and Cromwell and Monck, Wallenstein and Savonarola. In her present stage she was equally occupied in examining the political sincerity of the Secretary for Foreign Affairs, the good-faith of a honey-tongued but possibly loyal-hearted waiting-maid, and the disinterestedness of a whole circle of indulgent and flattering acquaintances.  


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№97

ふたりの求婚者といっしょにいて、しかも少なくともひとりは際立って若々しく、魅力があるように思え、しかも彼女の機嫌をとろうとしているのだから、エレーヌが、この世界に満足したとしても、とりわけ自分自身に満足したとしても筋がとおることであっただろう。でも、さい先のよい瞬間においても、幸せに支配されていることはなかった。彼女の顔には重々しい静けさがただよい、耐えがたい狼狽をいつものように覆いかくしていた。善意あふれる家庭教師がつづき、彼女の一門について道徳的考察が十分にされてきたため、富とは大きな責任であるという理論上の事実が彼女の心には刻まれていた。自分の責任というものを意識しているせいで、常に彼女が思いをめぐらすのは、自分に「執事」を去らせる適性があるかどうかではなくて、接する人々の動機やら利益についてだった。

With two suitors, one of whom at least she found markedly attractive, courting her at the same moment, Elaine should have had reasonable cause for being on good terms with the world, and with herself in particular.  Happiness was not, however, at this auspicious moment, her dominant mood. The grave calm of her face masked as usual a certain degree of grave perturbation. A succession of well-meaning governesses and a plentiful supply of moralising aunts on both sides of her family, had impressed on her young mind the theoretical fact that wealth is a great responsibility.  The consciousness of her responsibility set her continually wondering, not as to her own fitness to discharge her “stewardship,” but as to the motives and merits of people with whom she came in contact.  


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№96

しかしフランチェスカが母親の特権をかざして推察したところ、独身仲間は息子を破滅させようと骨を折るのに熱心であった。そのせいで若い政治家は、彼女にすれば露骨なまでに戸惑う原因になった。そして彼女がコーマスを認めないのと同じ程度に、コーマスは親近感をいだいては、その思いを吐露しようとした。 そうした親近感の存在が、しかも途切れることなく続いている親近感が、若いレディをいささか当惑させる事情のひとつで、好意を求められた娘にすれば、関係をはやく終わらせようとする口実になっただろう。

  Francesca, however, exercised a mother’s privilege in assuming her son’s bachelor associates to be industrious in labouring to achieve his undoing.  Therefore the young politician was a source of unconcealed annoyance to her, and in the same degree as she expressed her disapproval of him Comus was careful to maintain and parade the intimacy.  Its existence, or rather its continued existence, was one of the things that faintly puzzled the young lady whose sought-for favour might have been expected to furnish an occasion for its rapid dissolution.


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№95

たしかに、彼女は息子の友達の大半を認めていなかった。だが、彼女がこの人物にとりわけ、いつまでも苛立ってしまうのは、相手が異彩を放ち、多少なりとも公生活で成功しているという事実のせいであった。とりわけ苛立ちを感じるのは、政府の思慮に欠けた支出について舌鋒鋭く攻撃する文を読むときで、なぜならその文は自分の息子に思いつく限りの浪費をけしかけている若者によって書かれているからだ。実際のところ、ヨールがこの若者におよぼしている影響はごく僅かであった。コーマスには軽薄な出費をしたり浮ついた会話をしてしまうところがあって、それはたとえ世捨て人や貧民街イーストエンドの牧師のような人物と親しく交際するような状況に放り込まれたとしても変わらなかった。

She disapproved, it is true, of a great many of her son’s friends and associates, but this particular one was a special and persistent source of irritation to her from the fact that he figured prominently and more or less successfully in the public life of the day.  There was something peculiarly exasperating in reading a brilliant and incisive attack on the Government’s rash handling of public expenditure delivered by a young man who encouraged her son in every imaginable extravagance. The actual extent of Youghal’s influence over the boy was of the slightest; Comus was quite capable of deriving encouragement to rash outlay and frivolous conversation from an anchorite or an East-end parson if he had been thrown into close companionship with such an individual.  


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№94

二人の青年のあいだには親しさがあるおかげで、同じ女性のご機嫌とりをしているという暗黙の状況から混乱が生じても耐えられないでもなかった。その友情は少なくとも趣味や考え方が同じことに由来しているものでもなければ、仲間意識でもなく、その友情のよりどころは互いに相手のことを面白く思い、興味をいだいているという事実にあった。ヨールにすれば、少なくともしばらくのあいだ、コーマスが劇場通いの、ならず者の役割を演じていたときは愉快で、面白い相手でもあり、エレーヌの好意をめぐる競争相手としても同じ感情を感じていた。コーマスとしては、ヨールと接触がなくなることは望んではいなかった。それと言うのも、ヨールにはいろいろと魅力があるのだが、なかでもコーマスの母親なら認めない天性という長所を持ち合わせているからだった。

The intimacy existing between the two young men had suffered no immediate dislocation from the circumstance that they were tacitly paying court to the same lady.  It was an intimacy founded not in the least on friendship or community of tastes and ideas, but owed its existence to the fact that each was amused and interested by the other.  Youghal found Comus, for the time being at any rate, just as amusing and interesting as a rival for Elaine’s favour as he had been in the rôle of scapegrace boy-about-Town; Comus for his part did not wish to lose touch with Youghal, who among other attractions possessed the recommendation of being under the ban of Comus’s mother. 


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№93

すばらしいアマーストの雉はーその羽毛につつまれた姿で同じ場所にいる孔雀に挑戦を挑んむと相手の面目はつぶれたー君臨するスルタンのような、堂々とした自意識をもって、エメラルド色の芝生のうえを前後していた。夏がせわしない訪問客というよりは、いくぶん所有者なのであった。

ヒマラヤスギの影におかれたエレーヌの椅子のかたわらには、柳の小枝で編まれたテーブルがおかれ、その上にはアフタヌーン・ティーの茶器一式が置かれていた。彼女の足元におかれたクッションには、コートニー・ヨールがもたれかかっていた。如才なく着飾り、若々しく優雅なその姿は、装飾的な静けさを象徴していた。同じように装飾性も象徴していた。だがコーマスは人目をひくトンボの落ち着きのなさをみせ、前庭にはいりこんで離れたところから、フランネルの姿を見せびらかして楽しんでいた。

Magnificent Amherst pheasants, whose plumage challenged and almost shamed the peacock on his own ground, stepped to and fro over the emerald turf with the assured self-conscious pride of reigning sultans.  It was a garden where summer seemed a part-proprietor rather than a hurried visitor.

By the side of Elaine’s chair under the shadow of the cedars a wicker table was set out with the paraphernalia of afternoon tea.  On some cushions at her feet reclined Courtenay Youghal, smoothly preened and youthfully elegant, the personification of decorative repose; equally decorative, but with the showy restlessness of a dragonfly, Comus dis


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再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№92

低い石の手すりが湖の岸をかこみ、その水面にテラスの模型をうつしていた。そして、その近辺では薔薇が咲きほこっていた。他の場所でも薔薇の茂みが注意深く刈り込まれたり、手入れをされたりしながら、安らぎをあたえてくれる芝の緑に囲まれて、色彩と香りのオアシスを形成していた。さらに離れたところからでも、目に入ってくるのは、多彩な色にみちたロードデンドロンの生垣であった。こうした好ましい例外とともに、よく整えられた庭では花を見つけるのは難しかった。けばけばしいゼラニウムの花壇は見当違いの権威の乱用であり、花で飾られた道は無駄なしろものである。だから郊外の庭いじり趣味の人も、ここではそうした表現を見かけないのであった。

 A low stone balustrade fenced part of the shore of the lake, making a miniature terrace above its level, and here roses grew in a rich multitude.  Other rose bushes, carefully pruned and tended, formed little oases of colour and perfume amid the restful green of the sward, and in the distance the eye caught the variegated blaze of a many-hued hedge of rhododendron.  With these favoured exceptions flowers were hard to find in this well-ordered garden; the misguided tyranny of staring geranium beds and beflowered archways leading to nowhere, so dear to the suburban gardener, found no expression here. 


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