クルーグマン「アンモラルなエゴイストたちへ」NYT

Egos and Immorality – NYTimes.com.

2012年5月24日

国家を荒廃させる財政危機に瀕し、オバマ大統領は穏やかながら、でも明らかに必要な規制を若干制定した。なんとも許し難い税の抜け道を少しふさごうと提案したのである。また大統領の指摘では、ミット・ロムニーが会社を売り買いしてきたという歴史は、従業員を解雇して途中で年金を奪ったという歴史であり、アメリカの経済を動かすのに適した人間だということにはならないという。

ウォール・ストリートは反応したーーー私が思うところ、案の定である。泣いたり、かんしゃくをおこしたりしたのである。宇宙の帝王の、これほど子供っぽく、怒りっぽい姿を見ることになろうとは、ある意味、面白いことでもあった。ブラックストーン・グループのステファン・シュワルツマンが、税の優遇措置を制限する提案を、ヒットラーのポーランド侵攻になぞらえたことを覚えておいてほしい。JPモーガン・チェースのジャミー・ディモンが、収入の不平等性に関する議論を、成功という考えそのものへの攻撃とみなしたことも覚えておいてほしい。

しかし、肝心要はここなのだ。ウォールストリートが甘やかされて育ったたガキの場だとしたら、そのクソガキどもは巨大な勢力を手にしているし、自由に使用できる富も持ち合わせているってことだ。そして今、クソガキたちが力と富を使ってやろうとしていることは、利益を生み出してくれる政治を買うだけではなく、自分たちを批判しない政治を買おうとしているってことだ。

ところで、その話題の前に、ウォール・ストリートやその筋から信用の厚い支持者たちから散々聞かされている妖精物語を暴くことに時間をさこう。その妖精物語では、急騰した財政のせいでアメリカ経済がこうむった莫大な損害は記憶から流し去られてしまい、資本家はアメリカを救ったヒーローになるのである。

むかしむかし・・・と妖精物語は語りかける。アメリカは怠け者の管理職とぐうたら労働者の国でした。生産性は弱くなり、アメリカの産業は外国との競争のせいで衰退していきました。

やがて四角いあごをした、感情に流されないミット・ロムニーと作り話の人物ゴードン・ゲッコーが救助にきてくれて、財政と労働について訓練を行いました。たしかに二人を好まない人たちもいましたし、たしかに二人は途中でたくさん金儲けをしてしまいました。しかし結果はすばらしい経済の再生であり、利益が少しずつ皆のところへ流れていきました。

ウォール・ストリートがなぜこの話を好きなのかわかるだろう。しかし、ゲッコーとロムニーが金儲けを好きだという部分をのぞいて、その話はどれも真実ではない。

生産性が高くなるという主張が、現実には起きなかったからだ。実際、アメリカのビジネス全般の生産性は戦後スピードが早くなった時期があるが、その時代において銀行はきびしく規制され、個人による銀行の所有権はほとんど存在しなかった。その時代のほうが、「強欲は善」であると決めた今の政治システムより、生産性のスピードが早いのである。

国際的な競争はどうだろうか。現在アメリカは絶え間ない貿易赤字を運命づけられた国と考えられているが、常に赤字だったわけではない。1950年代から1970年代にかけては、だいたい貿易の均衡がとれていて、輸入した分と同じ位の輸出をしていた。大きな貿易赤字はレーガンの時代に始まった。いわばレーガンの時代は、急騰財政の時代なのだ。

では少しずつ富が流れていくという話はどうか。それも起きていない。過去30年間、生産物はかなり増大した。ウォール街の自己主義の連中が信じさせようとしている天秤で計ると、増大してないように見えるだけの話だ。アメリカの労働者に流れたのは、こうした利益のごくわずかな部分だけだ。

だから財政で凄腕をふるっても、アメリカの経済に奇跡は起きなかったのだ。そして、辣腕のディーラーたちが金儲けをしているのに、何故あいまいな結果しかでてないのかと問うべき処なのである。

けれど、これこそ凄腕ディーラーたちが訊かれたくない問いなのである。私の考えでは、税の優遇やら特権やらを守りたいだけではないのだ。そこにはまた、エゴにかられたものもあるのだ。莫大な富では十分ではなく、敬意も欲しいと望み、手に入れようと頑張っているわけだ。ウォール街のかつての民主党員がミット・ロムニーに好意をもっている理由を読んで驚いた。ロムニーの政策が優れているからではなく、財政超過に関するオバマ大統領の穏やかな批判のことを個人的に侮辱されたように考えているからなんだ。

ネワーク市長やコリー・ブッカーのように、ウォール街と関係のある民主党の政治家が義務感から立ち上がって、友達のなんともはかないエゴを守ろうとする姿を目にすると、実に悲しくなる。

冒頭に言ったように、ウォール街の自己中心的で、自分の利益に専念した行動は滑稽だ。けれど、こうした行動は面白いかもしれないが、また非常に不道徳なことなのだ。

今、無責任な銀行家のせいでもたらされた50年間の中において、私たちがどこにいるのか考えてほしい。銀行家たちは手を引いてしまったが、残りの国民の苦しみはまだ続いている。長期にわたる失業率は高い数値にあるにもかかわらず不況以降ほったらかしにされ、若いアメリカ人は学校を卒業しても救いようのない求職市場が待つのみだ。

この国家をおおう悪夢のなか、経済エリートたちが皆気にかけているのは、オバマ大統領が自分たちの感情を傷つけたってことだけだ。なんて滑稽な有様だろう。恥を知るべきだ。(Lady DADA訳・BlackRiver訳)

 

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