サキ 「耐えがたきバシントン」 14回 2章

 知性には欠けていながら、それとは相対的に自分の力については信じるところが大きい上級生たちは、まだ到着まで時間の猶予がある竜巻にタックルしようと準備していた。

 

 「君の立場にいるなら、生意気なバシントンの気をくじいて意気喪失させるんだが」学級担任の教師が同僚にかつて指摘したことがあるが、それというのも同僚の寄宿舎は、他の学生のなかにコーマスがいるという厄介な特徴をそなえていたからだ。

 「天により、それは禁じられている」同僚はいった。

 「そうだろうか、なぜ」改革論者はたずねた。

 「なぜなら天は、御心の仕業への妨げを嫌われるからだ。それに御しがたい者の意気をくじこうとするなら、自分に大変な責任をおわなければならない」

 「ばからしい。男の子なんて、神があたえたままの存在だ」

 「たいていの男の子はそうなんだが。ただ少数ながら例外もある。たしかにバシントンもそうしたひとりで、学生の段階で、自然によって高い次元にまでつくりあげられている。あたえられた素材を型に入れてつくりあげる私たちは、そうした少数派と関わってもどうすることも出来ない」

 「だが、その少数派が成長したら、何が起きるのだろうか」

 「そうした者は成長することがない」バシントンを預かっている教師はいった。「それがそうした者たちの悲劇だ。バシントンにしたところで、現在の状態を脱して成長することは絶対にあるまい」

 「まるでピーターパンの言葉で話しているようだ」バンシントンの寮監の話を聞いた教員はいった。

 「ピーターパンの流儀で話しているとは思わない」バシントンの寮監はいった。「その作品の筆者に尊敬をこめて言うのだが、子供の心を洞察する力は素晴らしいしものがあるし、繊細に洞察しているけれど、男の子のことについては何も知らないんだ。今、話題にしているこの作品について一つだけ批判するなら、英国の男の子でも、あるいはどこかの国の男の子でもいいけど、狼がいたり、海賊がいたり、落とし戸の上で戸を落とそうとしているインディアンがいたりするのに、子供の遊びに甘んじながら地下の洞窟にとどまる男の子がいるだろうか」

 寮監の相手をしている教員は笑い声をあげた。「君の考えときたら、明らかに、大人になろうとしなかった男の子のことは、男の子になることができなかった大人が書くべきだと考えている。おそらく、それこそが理想郷の意味だろう。おそらく君の非難はあたっている。だが、バシントンについては賛成できない。手に負えない厄介者だということは、関わってきた者なら誰もが知るところだ。だが手が空いているようなら、彼の意気をくじくべきだという意見をおすところだ」

 道理のとおったことをしているという、奪うことの出来ない担任としての特権をふりかざしながら、彼は立ち去った。


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