サキ 「耐えがたきバシントン」 16回 2章

ランスローは悲しいことに、チョークで線をひくという話の真実を理解した。

 コーマスは思いどおりの線を心配になる程の厳密さでひいたが、その線をユークリッドの図式や地図でロシアとペルシアの境界をひくのに使おうとするなら、彼は蔑んだことだろう。

 「少し前にかがめ」彼は犠牲者にいった。「もっとかがむんだ。うれしそうな面をしてみせなくていい。こっちから、お前の面は見えないからな。伝統に背いた言葉かもしれないが、これから痛い思いをするのは俺よりも、お前のほうだからな」

 慎重に考え抜いた沈黙のあとで、ランスローがまざまざと悟ることになったのは、本当に上手な者の手にかかると、どれほど巧みに鞭がふりおろされるかということだった。二発めの鞭をうけ、思わず椅子から離れようとした。

 「おや、回数を忘れたじゃないか」コーマスはいった。「また最初からやり直しだ。元の位置に戻っていただきたいんだが。もし終わりにならないうちにまた動いたら、ルートリィにおさえつけてもらって十二回打つことになる」

 ランスローは椅子に戻り、執行人の好みに身をさらすことになった。なんとかそこにとどまり、鞭で八回ぶたれ、正確かつ苦悶をともなっておろされた鞭は、チョークの線にそって効果的に攻撃した。

 「ところで」苦しみをあたえる刑が終わると、喉をならして喘いでいる犠牲者に、彼は声をかけた。「チェトロフといったな。たしか、お前を可愛がってやるようにと言われていた。まずは俺の勉強部屋を掃除しろ。古い陶磁器の埃をぬぐうときは慎重にやるんだぞ。もし何か壊してみろ、そのときは言いにこなくていいから、とっと出て行って、どこかで溺れ死ぬがいい。そうしなければ、もっと悪い運命が待っているからな」

 「勉強部屋がどこにあるのか知らないんです」チョークのあいまからランスローはいった。

 「見つけるんだ。さもないと、また鞭でぶつぞ。今度は、もっと痛いからな。ほら、チョークをポケットに入れて持って行け。また役に立つだろう。俺がしたことに感謝しなくてもいい、うっとうしいだけだ」

 コーマスは勉強部屋を持っていなかったので、ランスローは熱にうかされたように半時間ほど探し続け、また偶然にもサッカーの練習を逃してしまった。

 「ここではすべてが快適です」ランスローは姉のエメリーンに手紙を書いた。「監督生たちは、気分次第でとても熱くなることもありますが、ほとんどの人は礼儀正しいです。でも中には、獣みたいな人もいます。バシントンは下の学年でいながら監督生です。極限にまで達した獣です。少なくとも、僕はそう考えています」

 無口な男子生徒は、それ以上語らなかった。しかしエメリーンはその行間を、女性らしい卓越した想像力でおぎなって埋めてみた。フランチェスカの橋は、亀裂が入ろうとしていた。

 

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