サキ 「耐えがたきバシントン」 3章 19回

もう少し小さな部屋の中ほどをぬけ、人目をさける姿を探し求めていたそのとき、見知った姿を見つけ、渋い表情が彼女の顔に陰をおとした。微細なものながら、彼女の不機嫌がむけられた対象とはコートニー・ヨール、政治的に突出した成功をおさめた勝者であり、政治家小ピットの話を聞いたこともないような世代にすれば、信じがたいほど若々しく見える者だった。現代の政治家の生活の陰鬱さに、ディズレーリのダンディズムを吹き込むことが、彼の野心であり、またおそらくは趣味といってもよかったが、そのダンディズムもアングロ・サクソン好みの正確さのおかげで和らぎ、彼のなかのケルトの血から受け継がれたウィットのきらめきがダンディズムをささえていた。彼の成功とは、その場しのぎの手段にすぎなかった。大衆が彼に見いだせないものとは、上昇中の政治家に自分たちが求める下品な感触だった。栗色に近い金髪の彼は口先巧みに飾りたてるせいで、鋭い警句が火花をちらして永遠のものとなったが、抑え気味のものながら贅をこらした胴着も、ネクタイも実を結ばず、彼の弁舌と同じくらいに空回りしていた。もし、いつも桃色の珊瑚のマウスピースをつかって紙巻きタバコを吸っていたなら、あるいはマッケンジー・タータンのスパッツをはいていれば、寛大な心をもつ有権者も、大げさな言葉で記事を書く記者も、彼に対して容赦しなかっただろう。公の生活を送るための手管のかなりの部分とは、どこまで進み、どこで止めるのかを知ることから成り立っている。

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