アビジット・バナジー 「なぜ貧困と戦うことが難しいのか」

(バナジー氏から直接許可をいただいたので、2008年発表のこのエッセイを少しずつ翻訳していきます。原文はMIT Economisのバナジー氏のサイトにあるpaper一覧2008年発表のWhy fighting poverty is hard、A4で16枚くらいです)

反貧困の政策が本来のものより機能しない理由のひとつとしてあげられるのは、私たちの取り組み方が単純であり、なぜ政策が困難なものとなっているのか十分理解していないからである。このエッセイは、インドにほとんどの基礎をおく私自身の調査から「なぜ貧困と戦うことが難しいのか」という問いについて、私が学んできたことをまとめたものである。

 

1貧しいひとを見つける

 

1ー1貧しいひととは誰なのか?

 

誰かが貧しいひとを助けたがっていると仮定しなさい。どうすれば貧乏なひとは見つかるのだろうか? この問いは、避けがたい部分がある。なぜなら「貧しい」とは、背が高いとか美しいというように、想像力でつくられたカテゴリーにはいるものだからである。貧しいひとたちのことを話しているとき、自分たちが何を言おうとしているのか理解しているつもりになることがしばしばある。だが、貧困について機能するような定義に到達するには、個人の意志にもとづく選択がたくさん要求される。たとえば、私たちが覚悟をきめ、困難に立ち向かい、ある水準(貧困ライン)以下にある人々が貧しく、それ以外の人々は貧しくないと言うならば、どこに批評的な基準をおけばいいのかわからないだろう。それぞれの人にとって、何が基準になるのだろうか? 収入、消費、富のようなものが、確かに基準として挙げられるが、他にも考えることができるものがあることは明らかである。こうした事柄のなかでも、収入が一番自然に思えるかもしれないが、収入を測定する試みにも心配がではじめている。結局、収入とは多様である。とりわけ給料収入をもたない傾向にある貧しい人の収入は多様である。さらにその日暮らしの、あるいはその月暮らしの人々というものは予期されるものでもあり、検討すべきものである(毎週、一日休暇をとる商人のことを考えてみなさい)。そうしたその日暮らしの人々は、買ったり消費したりすることが可能なものに影響をあたえることはない(なぜなら、そうした人々は貯金を使ったり、あるいは借金をしたりするからである)。つまり商人のことを、休日にもとづいて収入をはかるせいで、貧乏人と呼ぶ危険もあるのである。

 

ここで、もう少し期間を長くして平均していけば助かる話だが、それは別の問題を生じてくる。人々は、数週間前あるいは数ヶ月前の出来事を思い出すことはまったく得意ではない。基本的な変化がたくさんあるような場合は尚更である。さらに自分の収入とは何であるのか理解することに苦労していることもわかる(月給をもらっている人々でもなければ、仕事にともなって生じる利益の価値を知らない人々の場合)。流入と流出の双方があるせいでもある(すなわち収入のことであり費用のことである)。さらに流入も、流出も同時には起きない(だから、この二つを比較する方法を理解しなくてはいけない)

 

こうした理由から、多くの経済学者は消費を測定することを好む。それは明らかに消費における変化のほうが、収入における変化より少ないためであり(消費における大きな揺れを避けようとする人々の好みを反映するからである)、その期間にわたる平均収入と密接に関係しているためである。だが、消費を測定するということには限度がある。貯金していない人と比べて、たくさん貯金している人が良好な生活状態にあると、私たちは意図的に過小評価してしまう。たとえ貯金していない人の方に未来が開けているとしてでもある。健康に関する支出について取り扱うことにも別の問題がある。すなわち消費を計算するとき、強制的なものであって選択の結果でないからといって健康への支払いを除外するべきなのだろうか。あるいはこの家族が健康問題について取り組むことができるからといって健康への支払いを含むべきものなのだろうか。(実際のところ、貧乏な家族こそ病気に耐えることを甘んじて受け入れなければならないかもしれないのである)

 

消費を測定するということは、収入を測定することより易しいことではあるが(人々の消費パターンというものは安定しており、そのため最近どのようにお金を使ったのか聞くという考えには、もっともなものがある)、王道とは言い難い。一人一人にとって、きわめて時間のかかるものになりかねない。消費しただろう品物の一覧表をつくって、一人一人に聞かないかぎり、前の週に何に消費したのか思い出すことは難しい。それに何を消費するかという決定には、男女の性差が影響する。たいていの場合、男性は家の修理にいくらかかるのかということについて知っているものであり、一方で女性は玉ねぎの値段がいくらするのかということをよく知っている。その結果、消費支出について知るためには、家庭内のすべての人に訊ねる必要がでてくる。

 

 

 

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