サキ「耐えがたきバシントン」Ⅵ章54回

コーマスには幾分、人の心をまよわせるところがあり、その点ではヨールとひけをとらなかった。だがエレーヌ自身が彼の不安の原因であり、その不安が彼の人柄をおおう経帷子のように彼女の目にはうつった。彼女は、その若者に一時的な好意以上のものを感じ、いわば、そのままの少年の姿を愛していた。さらに彼女はむこうみずにも彼を見ようとはしないで、本当の彼の姿を評価しようとはしなかった。このようにして心の控訴院は、人柄に関する証人を調べることに忙しかったが、ほとんどの者があっけなく失敗するのは、好意的な評価をささえるために、控訴院が手に入れようとしている証拠をしめすことだった。この世のあり方や欠点について、もう少し経験をつんだ女なら、恋する気持ちのほうが相手を嫌に思う気持ちに勝るということを、なんの不満もなく受けいれることだろう。エレーヌは真剣に考えすぎて、簡単で、都合のよい見地から問題を考えることができなかった。コーマスに半ば恋しているため、彼が愛すべき魂の持ち主だと発見することがとても重要であった。だがコーマスは、本当のところをいえば、こうした発見をうながすようなことを何もしなかった。

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