サキ「耐えがたきバシントン」Ⅶ章72

「誰を結婚させようとしているのかな?」

そう問いかけてきたのはジョージ・サン・ミッシェルで、耳に届いた小話の断片にひきよせられて、近くのテーブルから迷い込んできたのだ。サン・ミッシェルは敏捷で、鳥ではないかと錯覚をおこさせるほど活動的な男であり、人々の記憶にあるその姿は初老の男であった。短く刈り込んだ尖った顎鬚が威厳をあたえていたが、それは彼がもっている他の特徴や外見からはいつも上手に貸すことを拒否されてしまうものであった。彼の職業は、もし職業についていたとしたらの話だが、趣味におおいかくされていた。その趣味とは、自分のまわりの社会で差し迫っていた些細な出来事やこれから起こりそうな事柄、あるいはそう見える話題について宣伝してまわることであった。噂話や情報から紛れ込んできた話、とりわけたまたま耳にした結婚話について情報を仕入れ、その噂を仔細に語ることに満足を感じ、その満足はいつまでも続くものであり、衰えを知らないものであった。婚約が公にされ、話のおおよその概観がみえてくると、彼は細部にわたり、その情報を正確さでみたし、とにかく根拠をもとめては、みずからの想像力に溺れ、相反する噂話の数々に浸るのだった。モーニング・ポストも近く発表されそうな婚約記事にみちているが、サン・ミッシェルが息をこらして小さな声で話す内容は、婚約した二人のなれそめは鮭釣りがきっかけであり、なぜガード・チャペルを使おうとしないのか、なぜ女性の伯母であるマリー伯母さんがふたりに反対しようとしたのか、生まれてくる子供たちの宗教教育の問題はどのようにして解決したかということなどであり、関心のある者にはもちろん、関心のない多くの者にまで話した。情報収集の特別網をとおして熱心にあつめた優れた情報のなかでも、彼がもっとも注目していたのは、主として周辺諸州で一番背が高く、痩せているとされる妻をもつことだった。この二つの要素をもつ女性は時々、サン・ミッシェルとオール・アングルという名前でとおっている社交界で見かけた。

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