一方で、足どりも軽やかに、速歩で進んでいく小さな雌馬に乗って、人影もなく誰も観ている者がいないところを進み、草いきれのする草が茂る小道をとおって未開の国へとむかう乗馬こそ、彼女がそのときにもっとも欲していたものだった。雌馬は用心深く内気なふりをしたが、それは人目をひく路傍の彫像が苛立たしい尻込みをするかのような、愚か者がするような目立つ神経質さなのではなく、想像上の動物が神経をふるわせているかのように、頭をすばやく動かしたり、瞬時にはねあがったりするのだった。彼女は不朽の名声をあたえられたピーター・ベルの精神的な態度を言いかえて口ずさんだ。
木の下には籠がひとつ
わたしにむかってくる黄色の虎が一頭
籠はたいしたことがないのに
この道には、驚かせるものがたくさんあった。通り過ぎていく自動車のサイレンやブンブンいう音、あるいは道端の脱穀機の大きな振動音といったものが冷淡に脅かすのだった。