サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅷ章 84回

「サーカスをやり過ごしてから、道にでたほうがいい」ケリウェイはいった。「動物の臭いのせいで、君の馬は神経質になって家に帰ろうとしなくなる」

それから、鍬をふるって抗うかのように繁茂している雑草を相手に忙しい少年に呼びかけ、この御婦人に牛乳を一杯、それから干しぶどうのパンを一切れ持ってくるように言いつけた。

「これほど魅力ある平和な場所を見たことがあるかしら」エレーヌは言うと、洋梨の木が風変りに幹を曲げたところに、親切にもあつらえられたかのようになっている席によりかかった。

 

「たしかに魅力がある」ケリウェイはいった。「だが、こうした些細な生活にも緊張がはしることがあって、平和であるために闘っているのだ。ここに住むようになってから学んで、いつも思うことなのだが、ぽつんと自分の世界にあるような農家でも、素晴らしい研究対象になるものだ。そこは想像されうるかぎりの、事件と悲劇が混ぜ合わされた場所になる。中世ヨーロッパの年代記のように、規律ある無政府状態がたもたれている。まるで中世の封建制度の権力者と大君主、もしくは城塞都市に描かれた落書き、司教に任命された大修道院長、主教のあいだか、強盗男爵と商人ギルドか選挙侯のあいだのようだ。争いにつぐ争い、そして裏をかく計略、さらには緩く適用されている規則をもちだして、あいまいな規則につけこんで相手を妨げる。ここにいれば自分の目で繰り返しを確かめることになるだろうが、ドイツ字体の黴臭い文字がよみがえるようなものだ。

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