サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅷ章 88回

ウィーンやバルカン半島の山々、そして黒海は遠く、その存在すら信じることは難しいのではないだろうか、と彼女は考えた。自分の傍らに腰かけている、この素晴らしいお伽の国を見つけ、創りあげたこの男には。現在の出来事が過去の出来事の後味をおしやってしまうのは、運命の真のとりあわせでもあり、人生の慈悲深い申し合わせでもあるのだろうか。ここにいるのは、かつて世を完全に支配していながら、今では全てを失った男であるが、彼は自分が這いつくばっている道沿いにある小さな隅に満足していた。そしてエレーヌは、素晴らしいものを支配下におさめていながら、自分がほどよく幸せなものか決めかねていた。子供時代の英雄だったこの人物を台座からひきずりおろして、もう少し高い場所に連れていくべきなのかどうかもわからなかった。不健康と不運のせいで、かつての恐れを知らぬ放浪者が完璧なまでに従い、服従しているという事実を認めたいというよりも、憤りたいという気持ちでいっぱいだった。

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