サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅹ章102回

彼の外見は、ふつうの身綺麗な英国紳士であったが、ただ異なるのは両目であり、千夜一夜物語の図書館版をほのめかしているかのような眼差しであった。服装も外見にあっていて、田園都市やカルチェラタンのブルジョワが、芸術と思想の血縁関係を宣言しようとするときに着るような服装ではなかった。つまり、仕立て屋の秩序をみだすかのような、汚れのついた服装ではなかった。彼の風変りなところは、当時、ひろがりつつある社会的な流れをあえて無視するかたちをとっているところにあり、しかもそれは反動思想家としてであって、改革者としてではなかった。流行りをおいかける集まりにおいて、彼があっと息をのむような驚きをうみだしているのは、女優を描くことを拒否したからであるが、ただし、もちろん、デブレット貴族年鑑の表装本にでてくるような、合法的なものとはいえ葛藤劇の最中にある人々を描いていた。好きな州の出身でなければ、アメリカ人の肖像画を描こうとは決してしなかった。彼の「水彩画の線」は、ニューヨークの新聞の言葉を借りれば、怒れる批評であり、大西洋を横断する依頼なのであった。そして批評も、依頼も、ケントックがもっとも欲しがっているものであった。

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