サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅹ章 106回

キリスト教の教会にいるほうが、アスコット競馬場の芝生にいるよりも流行の先端をいっているのだという考えを一度ひろめてごらんなさい。そうすれば、見たこともないような宗教生活の胎動を、この世代は経験することになるでしょう。でも聖職者や宗教組織が、「私たちを信じなさい。数百万の人々がそうしているのですから」という台詞で教義を宣伝するならば、期待できるものは無関心だけだし、信頼も弱まっていくことになるのです」

「時代というものが、かたちをかえてで流行を追いかけているにすぎませんけど、芸術作品とおなじように」レディ・キャロラインはいった。

「どのようにかえてでしょうか」ポルティモール師はたずねた。

「宗教についてのそうしたご冗談ですけど、90年代のはじめの頃なら、気が利いたものにも、また進歩的なものにも聞こえたでしょうよ。でも今日では、ひどく陳腐な味がしてくるわ。進歩的だと自称する風刺作家の戯言にすぎない。二十年ものあいだ、心地よく腰かけたまま、自分たちの時代について挑戦的なことをいったり、驚くようなことをいったりしているとでも思っているのね。でも、どんな欠点があるにしても、時代はじっと静止したりはしないものよ。支離滅裂な芝居を演じるシェラード・ブロー派でも、私の心に語りかけてくるものは、巡業中のサーカスのなかにでてくる初期ヴィクトリア朝の家具よ。それでも、過去の物真似がうまいマネシツグミの鳴き声を聞くために、人々を郊外から追い立てて、何か新しくて変革を引き起こすようなことをする先駆者だと考えるのだから」

「サンドイッチのお皿をとっていただけないかしら」空腹に励まされ、令嬢三人組のひとりが頼んだ。

「もちろんですとも」レディ・キャロラインはいうと、ほとんど空になりかけたバターつきパンの皿を手際よくまわした。

「キャヴィアのサンドイッチのお皿をお願いしたのですけど。ご面倒をお願いして申し訳なかったかしら」その令嬢は抗議した。

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