サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅹ章 108回

肖像画のなかには、一時的とはいえない関心をひきよせている絵があったが、それはフランチェスカ・バシントンの衣装を描いた習作だった。フランチェスカは、ある若い芸術家を贔屓にしていて、その見返りとして、並々ならぬ想像力をそそいだ独創的な作品で、自分の私物をおさめたパンテオンを豊かにしてもらっていた。その絵に描かれた彼女の姿は、偉大なルイ王朝のもっとも輝かしい時代の衣装に身をつつみ、背景となっているとは言い難い構成ではあるが、一応タペストリーのまえに座っていた。その織物の生地に描かれているのは、マルメロ、ザクロ、トケイソウ、巨大な三色昼顔、藤色の大輪のバラ、アルカディアの平和をかき乱す上機嫌のキューピッドがおしつぶしている葡萄など、異国情緒にあふれ、目をひくような花や果物であった。花で飾られた淑女の絹のガウンにも、淑女が腰かけているソファをおおうザクロの金襴模様にも、それと同じ様な特徴があった。その芸術家はみずからの絵画を「レコルト(収穫物)」と呼んだ。構成という名に値する果物や花、葉の細部がすべて人々の目をとらえ、左隅の広々とした開き窓のむこうにひろがる風景が目にはいってきた。それは冬にわしづかみにされた風景で、むきだしの、荒涼とした、黒く凍てついた景色だった。もし絵が収穫を象徴しているとしても、わざと生育させたものを収穫しているのであった。

さりはま の紹介

更新情報はツィッター sarihama_xx で。
カテゴリー: サキ パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.