サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅺ章 115回

コリドール・レストランでの重要な昼食会のあとで、エレーヌはマンチェスター・スクェアに戻り(そこに彼女はたくさんいる伯母のひとりと滞在していた)、心のなかで拮抗する感情のもつれと向かい合っていた。まず彼女が意識したのは、安堵感が心を支配しているということだった。彼女が性急さにかられて行動したのは、立腹からではないとは決して言い切れなかった。また本当なら、時間をかけて一生懸命考え、真摯に省みても、解決のつかないような問題であるにもかかわらず、彼女はさっさと片づけてしまったのだ。さらに最終的に決断をくだしたときの性急さを恐れる気持ちが少しばかりあったけれど、今では決心の正しさを疑う気持ちは微塵もなかった。実際、求婚者たちが彼女からあけすけに賞賛されて嬉々としているのに、それにたいして長いあいだ疑いの目をむけていたことのほうが驚きであるように思えた。彼女が恋をしていた相手とは、ここ数週間は、想像上のコーマスであった。だが毅然として夢の国から歩みさった今、わかってきたのは、彼にかわって心に訴えかけてきたすべてのことがらが、現実のコーマスの人柄とかけ離れたものであり、あるいは重なるとしても、それは気まぐれに支配されるものだった。

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