サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅺ章120回

エレーヌはいまだに直接シュッゼットと会って祝福をしてはいなかったが、シュゼットはすでに正式に婚約を発表しており、その相手とは、洋服の仕立てについて他のひととは異なる見解をもっているような青年だった。出かけていって祝福したい衝動が、コーマスに説明しなければという心よりまさっていた。手紙はまだ空白のまま書かれていない状態であり、頭で考えている文はまとまらないまま続いていたが、それでも彼女は車をだすように命令すると、急いで、でも熟慮したうえで午後の身仕度にかかり、一番贅をこらしているけれど落ち着いた装いをした。シユゼットは、と確信をもって考えた。おそらく、その日の朝、パークで着ていた服のままだろうが、それは細部にいたるまで念入りにつくろうとしたものだが、あまりに手が込みすぎているあまり、かえって失敗していた。

シュゼットの母親は、あきらかに満足そうな様子で、思いがけない客を歓迎した。娘の婚約は、と彼女は語った。シュゼットほどの魅力と有利さをそなえた娘が望むものとしては、社会は輝かしいものとはみないだろうが、エグバートはすべからく立派で頼もしい青年であり、まもなく州議会の一員になることだろう。

「そこから、もっと高いところへと道がひらかれると思っていますわ」

「そうですわね」エレーヌは答えた。「参事会員になるかもしれませんね」

「ふたりが一緒に写っている写真はご覧になったかしら」ブランクレー夫人はたずね、エグバートの将来の地位についての話題は避けた。

「いいえ、ぜひ見せてくださらないかしら」エレーヌはこたえ、まんざらでもない関心をしめした。「そうした類のものは見たことがありませんから。昔、婚約したカップルがいっしょに写真をとることが流行っていましたけど」

「今でも、とても流行っていますわ」ブランクレー夫人は断定したが、その声から自己満足な響きは幾分、取り除かれていた。そのときシュゼットが部屋に入ってきたが、やはり、その日の午前中にパークで着ていた服装のままだった。

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