サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅺ章121回

「母から婚約のことは聞いたでしょう」彼女は歓声をあげ、真面目にその話題にとりくんで母と同じことを言おうとした。

「出会いはグリンデルバルトだった。彼は私のことを氷の乙女と呼んでいるけど、それはスケート場で会ったからよ。とてもロマンチックでしょう?ある日のこと、私たちはお茶に彼を誘って、それから親しくなったのよ。やがて彼がプロポーズしてきたの」

「シュゼットに魅了されたのは彼だけではないけど」ブランクレー夫人が急いで割り込んできたのは、エグバートの思いのままになっているとエレーヌが考えるのを恐れてのことだった。「アメリカの大金持ちも、古い家柄のポーランドの伯爵も、この子に魅せられていたの。私たちのお茶会にいらしたら、きっと緊張するわよ」

ブランクレー夫人が、旅行をしない友人たちが多く集まるつきあいで、グリンデルバルトについて流してきた風評とは、意地の悪いものながら魅惑するものであり、そこでは生まれもよくて財産のある傲慢なひとたちが、無礼な暴力をはたらきそうになりながら、成り行き任せではあるにしても、なんとか行儀よくしている場所なのだと語ってきていた。

「エグバートとの結婚は、もちろん、人生の範囲を遠くにまで広げてくれるものになるわ」シュゼットは続けた。

「そうでしょうね」エレーヌはいった。彼女の目は、情け容赦なく従妹の身なりを細部に至るまでとらえていた。相手を打ち負かすことのない勝利ほど悲しいものはない。シュゼットが、双方の悲劇が、自分にこの上ない満足をあたえてくれている創造物に集中していると思いはじめたのは、エレーヌが登場してからだった。

「女性でも、自分で業績を築こうとしている男性のことを、社会的な意味で助けることができるわ。共通する考えがたくさんあることを発見して、とても嬉しいの。百冊の良書を選んで一覧表にしたけど、その多くが同じだったのよ」

「本が好きそうな方ね」エレーヌは言いながら、批判的な視線を写真にはしらせた。

「本の虫なんかじゃないわよ」シュゼットはすばやく言い返した。「とてもよく読んでいるひとだけど。行動をおこすひとなのよ」

「狩りはするの?」エレーヌはたずねた。

「いいえ、彼には馬に乗る時間も、機会もなかったから」

「まあ、お気の毒ね」エレーヌは感想をのべた。「乗馬が好きではない男性と結婚するなんて想像できないわ」

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