サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅺ章 123回

エグバートは、なんの世間話もしないような男のひとりだったが、尽きることのない様々な話題を提供した。どんな集まりにも顔をだし、とりわけ近隣でひらかれる午後のお茶会の席で、聞き手が限られている女性の集まりだとしても、公の場で発言しているかのような印象をあたえ、最後に質問に答えて幸せになるのであった。ガス灯で照らされた大使館の玄関や湿った雨傘について意見したりするが、どこにいても礼儀正しい拍手がついてまわってきた。その他のことについても、彼が自分で表現するところによれば「新しい考え」についての解説者なのであり、ややかび臭い言い回しを大量に利用しているような感じをそえるのであった。おそらく三十年にわたる風変わりな年月において、男からも、女からも、動物からも、彼が注目される存在であったことはなかった。しかし、そこには彼の断固たる意志が働いていて、以前にみいだしたときよりも、世界を良いものへ、さらに幸せで、純粋な場所にしておこうとするのであった。自分がその場面から姿を消したら、また以前の状況へ逆戻りをする危険があるにもかかわらず、彼はむなしく監視をしていた。死すべき人間には連続性は保証されないものだし、エグバートにしたところで人間なのに。

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