サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章130回

パークをぬけて帰宅の途についても、フランチェスカの心でもっとも関心をしめている事柄について、なにも啓蒙してくれるものはなかった。さらにまずいことに、その途中でフランチェスカはマーラ・ブラッシントンの声が聞こえてくる範囲から脱出する可能性のない状態に身をおくことになった。まとわりついてきたマーラは、文明の前哨地に出くわした孤独なツエツエバエのように熱心に語った。

「考えてみてごらんなさい」彼女は不規則にぶんぶんうなりあげた。「ケンブリッシャーにいる私のいとこが、人工ふ化器で、32羽のオーピントン種の白いにわとりをふかしたのよ」

「なんの卵をふ化器にいれたの?」

「白いオーピントン種のなかでも、特別な品種のにわとりよ」

「それなら、その結果には驚くようなところがあるようには思えないわ。も

しワニの卵を入れておいて白のオーピントン種がふ化すれば、カントリーライフに書くようなことでしょうけど」

「公園にある緑色の小さな椅子は、おもしろい形だけど、うっとりさせるところがあるわ」マーラはいうと、新しい話題へと転じた。「アールヌーボー風にもみえるし、木のしたに二脚ずつひきよせて、心をうちあけて話をしたり、だれかの噂話をしたりするときにうってつけだわ。この椅子が物語ってくれるといいのに、目にしてきた悲劇や喜劇を。それから恋の戯れやら結婚の申し込みのときのことを」

「椅子に口がついてなくて心から感謝するわ」フランチェスカはいうと、昼食会の席での身震いするような記憶がよみがえってきた。

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