サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章133回

「たしかに社交界のこの季節で、最高の美男美女の知的なカップルだなあ」別れ際に彼は大きな声でいった。扉がしまると、フランチェスカ・バシントンはひとりで居間に腰をおろした。

 

自分の希望がうちくだかれ、思い出というほろ苦い贅沢に屈するまえに、嫌な客がおしいってこないように用心して、賢明にも手段をこうじた。サン・ミッシェルの出発をうながすようにして見送ってきた女中を呼びつけ、命令をくだした。「私はレディ・キャロライン・ベナレスクのところで午後のお茶をいただいていますから、家にはいないわ」さらによく考え、思いつく限りの訪問客に面会禁止をひろげてから、社交場にいるコーマスをつかまえようと電話で伝言をつたえ、晩餐のために着がえる時間となる前に、できるだけ早く会いに来るようにといった。それから腰をおろして物思いにしずみ、あれこれ考えているうちに涙があふれてくるのであった。

 

彼女はみずから希望の城を建てていた。だが、それは空中楼閣にひとしいスペインの城であったが、ピレネーのたしかな土地に建てられていた。しっかりとした基礎に建てられる筈の城であった。若いふたりは人前で共に行動し、その結果、結婚の仲をとりもとうとする人々の噂にあがり、ふたりの名前は当然のことながら結びつけて語られた。この状況にさす唯一の影とは、前景においても、背景においても、コートニー・ヨールのしつこい存在だった。そして今、その影は現実として見えるところに忍び寄り、希望の城は廃墟となって、塵や残骸からなる屈辱的な姿をさらし、城のなかの部屋は骨格のみ残し、意図をくじかれた建築家をあざけり笑っていた。

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