サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章 139回

「すんだことをとやかく言っても仕方ないわね」フランチェスカはその言葉の見識とは矛盾するが、もう耐えきれないと言いたげな悲劇的なみぶりでいった。「過ぎたことをくよくよしても無駄だもの。それに現在のことにしても、未来のことにしても、考えなければいけないことがあるわ。この世は愚か者の天国とはいえ、人生から借家をかりたまま漠然とすごすわけにはいかないの」そこで彼女は気をしずめ、こうした状況では胸におさめておくわけにはいかない最終通牒をつきつけた。

「長い経験から知るかぎり、お金についておまえに話をしてみても無駄なことだとはわかっている。でも、これだけは言っておくけど、私はまもなく街を離れなくてはいけないことにある。それから悲しいけど、おまえもすぐさまイングランドを離れることを考えなくてはいけないのよ。この前、ヘンリーが話していたけど、おまえに西アフリカでの仕事の口があるらしい。経済的な観点からみると、もっとましな仕事をする機会があったのに。贅沢をするための些細な金を借りるために、その機会をぶちこわしてしまったのだからね。今や、おまえはある仕事につかなくてはいけないのよ」

「西アフリカだって」コーマスは考えこみながらいった。「それはいわば時代おくれの地下牢のかわりといったところだ。うんざりするような輩を保留しておくのには、都合のいい場所だ。ぼくの大切なヘンリーおじさんはさぞ悲嘆にくれながら、大英帝国の重荷について話したんだろうな。無価値ではあるけれど、ぼくには消費者としての使い道があることに気がついたというわけだ」

「コーマス、落ち着いて。おまえが話しているのは、過去の西アフリカの姿よ。学校でおまえが時間を無駄にしているあいだに、ウェスト・エンドで時間を無駄にするほうがましだったかもしれないけど、ほかのひとたちが熱帯の病の研究に取り組んできているの。それに西アフリカの海岸地帯は急速に変わってきていて、命をうばう部屋から療養所へと変貌しているわ」

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