サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 15章171回

「あの人たちときたら、食べ物以外のことは考えないのかしら?」エレーヌがたずねたのは、あぶった羊の肉という素晴らしい料理がいきなり真正面に運ばれたときのことだった。アメリカ人たちはやや大げさなまでにその料理を受けとると、そこにはいない筈の、若いジェロームでさえ、その料理を気に入っただろうと引き合いにだした。

「それとは反対ですよ」コートニーはいった。「あの人たちは広範囲にわたって旅をしてきているし、あの男性は高貴な方で、すばらしい肩書きの持ち主です。あんなに料理や食べ物のことを話したり、悲しんだりしているのは、家にいて味わう暇がないせいで、ある種のホームシックにかかっているからですよ。放浪の民ユダヤ人も、朝食のことをいつも話題にするけれど、実際には準備するのに時間がかかるから、彼らには食べる時間はないのにね」

ウェイターがウィンナーの皿を、エレーヌの前に運んできた。それと同時に、魔法のような静けさが、隣の食卓にいた三人のドイツの婦人たちにおり、その目には恐怖がゆらめいた。だが、やがて騒がしいおしゃべりに、再び興じ始めた。コートニーは、頼もしい予言者であることが証明されたわけだ。

 

“Do those people think of nothing but their food?” asked Elaine, as the virtues of roasted mutton suddenly came to the fore and received emphatic recognition, even the absent and youthful Jerome being quoted in its favour.

“On the contrary,” said Courtenay, “they are a widely-travelled set, and the man has had a notably interesting career.  It is a form of home-sickness with them to discuss and lament the cookery and foods that they’ve never had the leisure to stay at home and digest.  The Wandering Jew probably babbled unremittingly about some breakfast dish that took so long to prepare that he had never time to eat it.”

A waiter deposited a dish of Wiener Nierenbraten in front of Elaine.  At the same moment a magic hush fell upon the three German ladies at the adjoining table, and the flicker of a great fear passed across their eyes.  Then they burst forth again into tumultuous chatter.  Courtenay had proved a reliable prophet.


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