アーサー・モリスン倫敦貧民窟物語「ジェイゴウの子ども」10章71回

ディッキーは、上着の下に隠したオルゴールの箱に手をやりながら、手押し車の後方をうろついた。そして機をうかがっていたが、ようやく寝具の束のしたに贈り物をつっこむと、その場を離れた。だが猫背の少年は鋭い視線で、油断なく彼を見張っていた。「あそこを見て」と金切り声をあげた。「あいつが手を手押し車につっこんで、何かをとったよ」

「嘘つきめ」ディッキーは言い返したが、心では憤りを感じ、傷ついていた。だが用心深く後ずさりをした。「なにもとっていないよ」その証拠に両手をひろげ、上着をひろげてみせた。「おまえの寝台の枠をとったところで、仕方ないじゃないか」

 彼は、なにも持っていなかった。それはあきらかだった。実際、手押し車のうしろの方には、簡単に持ち去ることができそうなものは何もなかったし、隠すことができそうなものもなかった。少し怒っている引っ越しの荷物も、急いで運ばれていた。窓からは顔がのぞき、浮浪者が手押し車にさわりはじめ、騒動がいつ起きてもいい状況になってきたからだ。たしかに、あの人物がびくびくとした畏敬の念をいだかれていなければ、ルーパーさんたちは部屋からでてくることもできなかっただろうし、自分たちを危険にさらすこともできなかっただろう。誠実さを疑って攻撃することほど、ジェイゴウでは危険なことはないからだ。他のひとのものを盗むことは理にかなっているし、合法的なことなのだ。だから盗まれないようにすることは、当然のことであり、適切なことなのである。だが盗みをしたと人を責める行為は運動家らしくないものであり、むかつくような暴行行為であり、恥ずべき罵詈雑言であり、許し難いことなのである。人から盗むことがあってもいい。悪態をつくこともいい。たとえ人を殺すことがあってもいい。だが相手をおとしめるようなことは、たとえ何も持っていないような相手にたいしてであろうとも、ジェイゴウ中から憎悪をかきたてるような行為なのである。この地の素晴らしい名声を傷つけるならば、たとえば通りにひどい名前をつけるようなことをすれば、ジェイゴウから怒鳴り声や叩きつける音が聞こえてくるだろう。

 手押し車がようやく動き出し、見物人がざわめいたり、ひそひそ囁いたり、口笛をふきならすなかを進んでいった。男が手押し車をひいて、ルーパーがうしろからおした。妻は礼儀正しいながらもみすぼらしく、貧弱で、顔には傷がついていた。そして赤ん坊を抱きかかえてすすみ、かたわらには猫背の少年がいた。この一行を護衛するのが、ヘンリー・スタート師であった。

Dicky, with his hand on the music box in the lining of his jacket, sauntered up by the tail of the truck, and, waiting his chance, plunged his gift under the bundle of bedding, and left it there. But the little hunchback’s sharp eyes were jealously on him, and ‘Look there!’ he squealed, ”e put ‘is ‘and in the truck an’ took somethink!’

‘Ye lie!’ answered Dicky, indignant and hurt, but cautiously backing off; ‘I ain’t got nothink.’ He spread his hands and opened his jacket in proof. ‘Think I got yer bloomin’ bedstead?’

He had nothing, it was plain. In fact, at the tail of the truck there was nothing he could easily have moved at all, certainly nothing he could have concealed. So the rest of the little removal was hurried, for heads were now at windows, the loafers began to draw about the truck, and trouble might break out at any moment: indeed, the Ropers could never have ventured from their room but for the general uneasy awe of the parson. For nothing was so dangerous in the Jago as to impugn its honesty. To rob another was reasonable and legitimate, and to avoid being robbed, so far as might be, was natural and proper. But to accuse anybody of a theft was unsportsmanlike, a foul outrage, a shameful abuse, a thing unpardonable. You might rob a man, bash a man, even kill a man; but to ‘take away his character’—even when he had none—was to draw down the execrations of the whole Jago; while to assail the pure fame of the place—to ‘give the street a bad name’—this was to bring the Jago howling and bashing about your ears.

The truck moved off at last, amid murmurings, mutterings, and grunts from the onlookers. The man of the truck pulled, Roper shoved behind, and his wife, with her threadbare decency and her meagre, bruised face, carried the baby, while the hunchbacked boy went by her side. All this under convoy of the Reverend Henry Stur

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