アーサー・モリスン「ジェイゴウの子ども」25章 163回

その日の朝、デイッキーが盗んだものは、たいしたものではなかった。彼が握りしめて駆けだしたものとは、真新しい、二フィートの物差しで、それは高級家具づくりの職人がカーテン・ロードにある店の戸口で、事務所の机をつくっていたときに、まだ完成していない事務所用テーブルのうえに、うっかりと置き忘れてしまったものだった。たいしたものではなかったが、そのおかげでウィーチの店で、なんらかの夕食にありつけるかもしれないし、そうしたほうが家に帰るよりもいいだろう。帰ったところで、おそらく何もないからだ。そこで昼頃、父親の不運について何も知らないまま、ホリウェル・レーンとベスナル・グリーンを経由して、ミーキン・ストリートへむかった。

 ウィーチさんが自分を見る様子には、なんだか変なところがあるとデイッキーは思いながら、それでも中にはいると、二フィートの物差しを愛想良く受け取り、ベーコンの薄切りをだしたあと、さらにお菓子を一切れだしてくれた。とても気前がよかった。さらにウィーチさんの様子には、ふだんとはちがって感じのいいところがあった。食事がおわると、彼は自分からすすんで、ペニー銅貨を追加してくれた。デイッキーは驚いたが、異議を申し立てる筈はなく、そのことについて少しも考えてみなかった。

 ラック・ローに足をふみいれたところで、すぐに教えてもらったのは、父親が連行されたということだった。その知らせは十分もしないうちに、ジェイゴウにひろまっていた。ジョシュ・ペローは、ミーキン・ストリートをひっそり歩いていたんだ。このようにして、話はひろまっていった。かぎ煙草やら飲み物を売る連中があらわれ、やがて気取った男たちがあらわれた。ジョシュはウィーチのドアへ行こうとしたのだが、取り押さえられてしまった。ジョシュも、愚かなことを考えたものだ、ウィーチの店をぬけて裏庭に出ようとしたのだからと、ジェイゴウの人々は話した。結局そのようなことをしても、無駄に終わったのだ。

 

Dicky’s morning theft that day had been but a small one—he had run off with a new two-foot rule that a cabinet-maker had carelessly left on an unfinished office table at his shop door in Curtain Road. It was not much, but it might fetch some sort of a dinner at Weech’s, which would be better than going home, and, perhaps, finding nothing. So about noon, all ignorant of his father’s misfortune, he came by way of Holywell Lane and Bethnal Green Road to Meakin Street.

Mr Weech looked at him rather oddly, Dicky fancied, when he came in, but he took the two-foot rule with alacrity, and brought Dicky a rasher of bacon, and a slice of cake afterward. This seemed very generous. More: Mr Weech’s manner was uncommonly amiable, and when the meal was over, of his own motion, he handed over a supplementary penny. Dicky was surprised; but he had no objection, and he thought little more about it.

As soon as he appeared in Luck Row he was told that his father had been ‘smugged.’ Indeed the tidings had filled the Jago within ten minutes. Josh Perrott was walking quietly along Meakin Street,—so went the news,—when up comes Snuffy and another split, and smugs him. Josh had a go for Weech’s door, to cut his lucky out at the back, but was caught. That was a smart notion of Josh’s, the Jago opinion ran, to get through Weech’s and out into the courts behind. But it was no go.

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