アーサー・モリスン「ジェイゴウの子ども」37章 169回

その朝、ディッキーは歩いていたが、なかば麻痺した状態であり、はげしい憤怒にかられていた。今、なにをしたらいいのだろう? 彼は悪魔と化していた。誰も容赦しないし、どんなことでもやりかねない。数年前の朝、老ベベリッジが言ったことは正しかった。ジェイゴウの民となり、もう、その手中におちた。今や、追放者の烙印は、二重に押されていた。ジェイゴウの者で、しかも父親は絞首刑になった。スタート神父は、仕事のことについて話をしたが、だれが自分に仕事をくれるだろうか。どんな場合でも、そういう目にあうのだろうか? これまでも、なにかいいことがあっただろうか? いや、ない。彼はジェイゴウの人間であって、世界を敵にまわしているのだ。そのなかにあって、スタート神父はただひとり、親切にしてくれるひとだった。その他の連中に関していえば、できるものなら叩きのめしてやりたかった。明日の夜には、やることがあった。そのときまでに、自分の頭が冷めていればだが。キングズランドの建設労働者の作業場だ。屋根裏部屋に事務所があって、共同で使っている机に金があった。トミー・ランが見つけてきたのだが、共同で作業をしなくてはいけなかった。そのためには、この妙な、麻痺した感覚をぬぐい去り、頭をはっきりさせなくてはならない。ずいぶんと涙をながした。いっぽうで、ずいぶんとこらえた。やがて彼の頭は爆発しそうになった。目をはらし、血の気がひいた顔色で、足をひきずるようにエッジ・レーンにはいり、そのままニュー・ジェイゴウ・ストリートへ進んだ。

 

 ジェリー・ガレンのカナリヤは、引き具をつけられ、手押し車につながれていた。ジェリーは、手押し車に布きれや瓶をつみあげていた。ディッキーは立ったまま、ながめていた。カナリーの頭をなでようと考えていたのだが、気持ちをかえ、動かないでじっとしていた。ジェリー・ガレンは、一、二度こっそり様子をうかがいってから、声をかけてきた。「かわいい老いぼれロバだなあ?」

「うん」ディッキーはふさぎこんで答えたが、なかば思いつきで話した。「まもなく釘をうたれてしまうんだ」

「こいつが? そんなことはない。きっとお前より長生きするよ。死んだりなんかしない」

「死ぬのさ」ディッキーはいうと、前かがみになった。

 

Dicky walked that morning in a sort of numb, embittered fury. What should he do now? His devilmost. Spare nobody and stop at nothing. Old Beveridge was right that morning years ago. The Jago had got him, and it held him fast. Now he went doubly sealed of the outcasts: a Jago with a hanged father. Father Sturt talked of work, but who would give him work? And why do it, in any case? What came of it before? No, he was a Jago and the world’s enemy; Father Sturt was the only good man in it; as for the rest, he would spoil them when he could. There was something for to-morrow night, if only he could get calmed down enough by then. A builder’s yard in Kingsland with an office in a loft, and money in a common desk. Tommy Rann had found it, and they must do it together; if only he could get this odd numbness off him, and have his head clear. So much crying, perhaps, and so much trying not to, till his head was like to burst. Deep-eyed and pale, he dragged round into Edge Lane, and so into New Jago Street.

Jerry Gullen’s canary was harnessed to the barrow, and Jerry himself was piling the barrow with rags and bottles. Dicky stood and looked; he thought he would rub Canary’s head, but then he changed his mind, and did not move. Jerry Gullen glanced at him furtively once or twice, and then said: ‘Good ole moke for wear, ain’t ‘e?’

‘Yus,’ Dicky answered moodily, his talk half random. ”E’ll peg out soon now.’

”Im? Not ‘im. Wy, I bet ‘e’ll live longer’n you will. ‘E ain’t goin’ to die.’

‘I think ‘e’d like to,’ said Dicky, and slouched on.

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