アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」16章157回

 彼らは歩き続けた。たしかに辛い日々が、バトスンさんに影をおとしていた。長靴の靴底は四分の三がすり減り、くるぶしから上にかけての部分には亀裂が走っていた。普段着と作業着を兼ねたような服を着ていたが、それは擦り切れ、油で汚れ、ぼろぼろになりかけていた。破れそうな、青デニムの労働服の下で体をふるわせながら、首もとまでボタンをかけている様子は、その下にシャツを着ていないことを仄めかしていた。彼の山高帽は風雨にさらされ、裂け目が入り、後ろのひさしは、カビのせいで王冠のようになり始めていた。

 やがてアイザックおじさんは、何かを言わなくてはと思い、訊ねた。「ずっと外で暮らしていたのか?」

「つい最近からだ。以前は、水圧応用機械の仕事についていた。だが、つまらないことで小言を言う男がいた。その小言に耐えられそうにもなかったから、仕事をやめただけだ」

「他に仕事はしなかったのか」

「あまりやらなかった。ひとつふたつはした。でも、どれも長続きはしなかった。カットのむこうにある洗濯屋を知っているかい?そこでエンジンを扱う仕事に雇われて、一週間のああいだ袋のあいだで働いた。でも連中に、居眠りしていると言われた。本当に胸くそ悪い連中だ。他の職場も同じ様なものだ。あの連中の態度ときたら、まるで俺様のことを、俺様のことを、ありふれた凡才のように扱おうとする。だから、そうじゃないというところを連中にみせたんだ」

「そうか」アイザックおじさんは、ぼんやりと相づちをうった。彼はどちらの道を行こうか、どう相手と別れたものか思案していた。だが、言い訳をしてもすぐにしどろもどろになり、そこで相手は話し続けた。

「さて」彼はいった。「昔のようには、たくさん話をしないんだな。俺にできる仕事を知らないか」

「いや、知らない」アイザックおじさんは、とたんにふさぎこんで答えた。「商売はさっぱりだ。まったく駄目だ。私自身も少ししか働いていないんだ。来る日も、来る日も、ずっと我慢しているんだ。今日も、ずっと我慢していたんだ」

「仕方ない、それなら一シリングかしてくれ」

 アイザックおじさんは、ふたりのあいだの距離をとると、さらにその距離を広げようとした。「本当なんだ、バトスンさん、私は」

「わかった。それなら二シリングにしてくれないか。いつか私から、それ以上の金をとったじゃないか」

「だが、だが、今いったじゃないか。私も運がついてないんだ。来る日も、来る日も、我慢しているんだ」

 

They walked on. Truly the bad year had left its marks on Mr. Butson. The soles were three-quarters gone from his boots, and the uppers were cracked. He wore a mixture of ordinary and working clothes, frayed and greasy and torn, and he shivered under a flimsy dungaree jacket, buttoned so close to the neck as to hint an absence of shirt. His bowler hat was weather-beaten and cracked, and the brim behind was beginning to leave the crown because of rain-rot.

Presently Uncle Isaac, impelled to say something, asked, “Bin out all the time?”

“Very near. Got a job on a ‘draulic, but the chap began jawin’ me about somethin’. I wasn’t goin’ to stand that, so I just walked out.”

“Nothin’ else?”

“Not much. One or two things I got on to, but they didn’t last. Know the laundry over the Cut? Well they took me on there to run the engine, an’ sacked me in a week. Said I was asleep! Measly swine. Much the same at other places. Seemed to want to treat me like—like any common feller. But I showed ‘em different to that!”

“Ah!” commented Uncle Isaac absently. He was wondering which way to lead the walk, and how to take leave of his companion. But his invention was at a stand, and presently the other went on.

“Well,” he said, “you ain’t got so much to say as you used. Know any job you can put me on to?”

“No, I don’t,” replied Uncle Isaac with gloomy simplicity. “Trade’s bad—very bad. I bin workin’ short time meself, an’ standin’ auf day after day. Stood auf to-day.”

“Well then, lend us a bob.”

Uncle Isaac started, and made the space between them a foot wider. “Reely, Mr. Butson, I—”

“All right, make it two bob then, if you’d rather. You’ve ‘ad more ‘n that out o’ me one time an’ another.”

“But—but I tell you I’m unfort’net meself. I bin standin’ auf day after day—”

 

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