アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」19章172回

19章

 

 待ち望んだ休みの日がおとずれ、よく晴れわたった月曜日の朝がきた。ベッシーの綿モスリンのドレスは、母の手を借りてこの日のためにつくったもので、そのドレスに身をつつんだベッシーがじりじりしているうちに、あっという間に一時間が過ぎた。それというのもジョニーが寝床でぐずぐずしているからなのだが、ジョニーにすれば、罰金を払うこともなく「十五分をむだにする」という贅沢を満喫していた。

 だがジョニーも、八時前には朝食の支度をした。そのとき、店の扉があいているのに気がついたので、シャッターをおろすために駆け寄ったが、それはいつもなら、彼が仕事にでかけて留守にするときには、母親がしていることであった。「いつもぼくがシャッターをあげているけど、今日はおろすとしよう」彼はいうと、意気揚々と歩きはじめた。「気をつけて、かあさん。油断していると、母さんがはさまってしまうよ」

「ああ、いいから、ジョニー」彼女はいった。「そのままにしておいて。どうせあとで…」そこで彼女は口をつぐんだ。

「どうせあとで、なにをするんだい?」ジョニーは訊ねながら、シャッターの内側へと戻ってきた。「どうせ客に給仕をすることになるじゃないか。店があいていたら。もちろん、そうするのだろうけど。母さんは、休日じゃないから。ぼくたちが休日なだけだ。さあ、気をつけて。いいかい」

 ベッシーが、ずっと古い晴雨計をゆすっているのは、それが三十分のあいだ、針が動くことなく、針の影も静止したままだったからだ。これで彼女がジョニーに訊ねるのは十五回になるが、予定の列車が早まることはないかと訊ねてきた。やがて、ついにジョニーがそろそろ出かけたほうがいいと言うと、ナン・メイはふたりにキスをして、いってらっしゃいと送りだしたが、その様子が、あまりにもの言いたげで、真剣だったものだから、ジョニーも心動かされるのだった。「だいじょうぶだよ、かあさん」彼はいった。「すぐに戻ってくるから」

 駅にたどり着かないうちから、ベッシーはいった。「ジョニー、最近、かあさんの様子がおかしいわ。すぐに別の列車がくることだし。戻らない?かあさんが大丈夫かどうか見てきましょうよ」

 ジョニーは笑い声をあげた。「心配のしすぎだよ」彼はいった。「そんなことをしても、また次の列車に乗れなくなるだけだよ。また戻って、かあさんの様子を確かめに行くのだから。そのあとも、同じことの繰り返しだ。かあさんは大丈夫だよ。ただ、少し、おじいちゃんのことやら、他にもいろいろ考えることがあったせいさ。それにぼく達が森に行くせいで、余計、思い出しているんだ。いいかい。せっかくの日だから、ふさぎ込んじゃ駄目だよ」

 

THE longed-for holiday came with a fine Monday morning, and Bessy, in a muslin frock that her mother had helped to make for the occasion, was impatient, an hour too soon, because Johnny lingered in bed; enjoying the luxury of “losing a quarter” without paying the penalty.

But Johnny was ready for breakfast before eight, and, seeing the shop-door open, ran to take down the shutters, a thing his mother commonly did herself, because of his absence at work. “I always put ‘em up, and for once I’ll take ‘em down,” he said, prancing in with the first. “Look out, mother, or I’ll bowl you over!”

“O no, Johnny,” she said, “leave ‘em. I’ll only have to—” and at that she stopped.

“Only have to what?” Johnny asked, going for another. “Only have to serve the customers, eh, ‘cause the shop’s open? Of course you will—it ain’t your holiday, you know—it’s ours! Look out again! Shoo!”

Bessy rattled at the old barometer still, though for half an hour it had refused to move its hand a shade; and she asked Johnny for the fiftieth time if he were perfectly sure that the proper train wasn’t earlier than they were supposing. And when at last Johnny admitted that it was time to start, Nan May kissed them and bade them good-bye with so wistful an earnestness that Johnny was moved to pleasantry. “All right, mother,” he said, “we’re coming back some day you know!”

They were scarce half-way to the railway-station when Bessy said: “Johnny, I don’t think mother’s been very well lately. There’ll be another train soon; shall we go back an’—an’ just see if she’s all right, first?”

Johnny laughed. “That’s a good idea!” he said. “An’ then I s’pose we’d better miss the next, an’ go back to see how she’s getting on then, an’ the one after that, eh? Mother’s all right. She’s been thinking a bit about—you know, gran’dad an’ all that; and because we’re goin’ to the forest it reminds her of it. Come on—don’t begin the day with dumps!”

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