アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」28章239回

ある夜、九時少し前に、ジョニーはむやみに探し回るのにうんざりしてしまい、母親にノラ・サンソンの話の一部始終をしようと心に決め、家に戻ってきた。ハーバー・レーンの曲がり角のところで、バトスンさんが歩いて立ち去っていくのをみかけた。夕方のまだ早い時間なのに、ブラックウォールで彼を見かけたことを訝った。

誰も店にはいなかったので、ジョニーは静かに奥にすすんだが、驚いたことに、母親とベッシーが店につづいている居間で、ひどく泣きじゃくっていた。ナンは椅子に腰かけ、ベッシーが母親におおいかぶさっていた。もう隠しようがなかった。ジョニーは、激しい驚愕にうたれた。「おかあさん! どうしたの?」彼はいった。「あいつは、何をしていったんだ?」

ナンはかがみこんだが、何も答えなかった。ジョニーは威厳らしいものをただよわせながら、ベッシーのほうを見つめた。

「あのひと、あのひとがまた、お母さんのことを叩いたの」ベッシーは啜り泣きのあいまに、口をすべらした。

「お母さんのことを叩いたって。まただと」ジョニーの顔は白くなり、鼻孔のまわりがふくらんだ。

「お母さんのことを叩いたって。まただと」

「最近、いつもそうしているのよ」ベッシーはすすり泣いた。「お金をもっと欲しがるの。お兄さんに言おうと思っていたけれど、でも…」

「お母さんのことを叩いただと!」その部屋は、ジョニーの視野のなかで宙にうかんだ。「なぜ、そんなことを」立ち上がると、扉を閉めた。

「落ち着いて、ジョニー」彼女は冷静さを取り戻して言った。「みんなが取り乱しているけど、お兄さんは取り乱さないで。お願いだから」

「足はどうしたの? 引きずっているじゃないか、母さん」

「母さんのことを蹴ったのよ。母さんのくるぶしを蹴っているところを見たわ」ベッシーは言うと、ありのままに話した。「とめようとしたけど、でも…」

「そうしたら、お前のことも叩いたのか?」ジョニーは訊ねた。もう頬は白くなかったが、口のまわりが一段と白くなっていた。

「ええ。でも、いちばん叩かれたのはお母さんよ」ベッシーは、また泣きはじめた。

 

So it was when Johnny turned toward home on an evening a little before nine o’clock, sick of blind searching, and ready to tell his mother the story of Nora Sansom, first to last. At Harbour Lane corner he saw Butson walking off, and wondered to see him about Blackwall so early in the evening.

Nobody was in the shop, and Johnny went through so quietly that he surprised his mother and Bessy, in the shop-parlour, crying bitterly. Nan sat on a chair and Bessy bent over her, and no concealment was possible. Johnny was seized by a dire surmise. “Mother! What’s this?” he said. “What’s he been doing?”

Nan bent lower, but answered nothing. Johnny looked toward Bessy, almost sternly. “He—he’s beaten mother again,” Bessy blurted, between sobs.

“Beaten mother! Again!” Johnny’s face was white, and his nostrils stood wide and round. “Beaten mother! Again!”

“He’s always doing it now,” Bessy sobbed. “And wanting more money. I’d a good mind to tell you before, but—but—”

“Beaten mother!” The room swam before Johnny’s eyes. “Why—” rose to close the door. “No, Johnny,” she said meekly. “Pm a bit upset, but don’t let it upset you. Don’t you—”

“What’s the matter with your leg? You’re limping!”

“He kicked her! I saw him kick at her ankle!” Bessy burst out, pouring forth the tale unrestrained. “I tried to stop him and—and—”

“And then he hit you?” asked Johnny, not so white in the cheeks now, but whiter than ever about the mouth.

“Yes; but it was mother most!” and Bessy wept afresh.


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