チェスタトン「マンアライヴ」一部四章第97回

 暗がりにしずむ居間のなかをムーン氏は覗き込んだのだが、ロザムンドが節度に欠ける退出をしたすぐ後から、そこでは奇妙な出来事が進行していた。暗い居間で起きているその出来事は、アーサー・イングルウッドの目には天と地がひっくり返っているように見えるもので、天井には海がひろがり、床には星がちらばっているようなものであった。どんな言葉も、彼の驚きをあらわすことはできない。単純な男なら、驚かないではいられないような状況が起きているからだ。さらに女性らしくも、形式的に耐え忍ぼうとする気持ちは、わずか紙一枚、あるいは鋼一枚で取り除かれるものらしい。女は屈服しているわけでもなければ、相手を思いやっているわけでもなかった。その女は厳しいことこの上なく、情もないはずなのに、声をあげて泣こうとしていた。洗練されているはずの男が、顎髭をはやすようなものだった。それは性的能力のひとつで、個性について、何も教えてくれるものではなかった。だがアーサー・イングルウッドは、女性を知らない若い男だ。ダイアナ・デュークが泣いている姿を目にすれば、石油をこぼす車を見ているような気持ちにかられるのであった。

 

Inside the dark sitting-room of which Moon had caught a glimpse a curious thing had happened, almost an instant after the intemperate exit of Rosamund. It was something which, occurring in that obscure parlour, seemed to Arthur Inglewood like heaven and earth turning head over heels, the sea being the ceiling and the stars the floor. No words can express how it astonished him, as it astonishes all simple men when it happens. Yet the stiffest female stoicism seems separated from it only by a sheet of paper or a sheet of steel. It indicates no surrender, far less any sympathy. The most rigid and ruthless woman can begin to cry, just as the most effeminate man can grow a beard. It is a separate sexual power, and proves nothing one way or the other about force of character. But to young men ignorant of women, like Arthur Inglewood, to see Diana Duke crying was like seeing a motor-car shedding tears of petrol.

さりはま の紹介

何かあればsarihama★hotmail.co.jpまでご連絡ください。★は@に変えてください。更新情報はツィッター sarihama_xx で。
カテゴリー: チェスタトンの部屋, マンアライヴ パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.