チェスタトン「マンアライヴ」一部四章第98回

 彼は男らしい、遠慮がちな性格が許したとしても、その異様な女を目にしたとき、自分がどう行動すればいいのか、曖昧模糊とした見通しすら、たてることができなかっただろう。彼が行動にでる有様ときたら、劇場が出火したときに人々がとる行動を思わせるものだったからだ。それは演劇人なら、こうすべきだと人々が考えていた行動から完全にかけ離れ、善悪の見境がないものだった。彼の脳裏には、なかば押し殺したような、言い訳めいた記憶が微かに残っていた。相続人である彼女は、この下宿で支払いをしている唯一人の下宿人だから、もし彼女が出ていけば、そのかわりに役人たちがやってくるだろう。ひとしきり考えたが、彼は言いはるしかなかった。

「ひとりしてほしいの、イングルウッドさん。わたしをひとりにして。そんなことをしても助けにはならないわ」

「でも、僕は君を助けることができるよ」アーサーは、木っ端微塵になった確信をこめて言った。

「できるとも、そうだ、できるとも」

「だって、あなたは言ったわ」娘は泣いた。「私よりずっと弱いって」

「ああ、僕は君より弱い」アーサーが言うと、その声はすべてを震わせるように響いた。「でも、今はちがう」

 

He could never have given (even if his really manly modesty had permitted it) any vaguest vision of what he did when he saw that portent. He acted as men do when a theatre catches fire—very differently from how they would have conceived themselves as acting, whether for better or worse. He had a faint memory of certain half-stifled explanations, that the heiress was the one really paying guest, and she would go, and the bailiffs (in consequence) would come; but after that he knew nothing of his own conduct except by the protests it evoked.

“Leave me alone, Mr. Inglewood—leave me alone; that’s not the way to help.”

“But I can help you,” said Arthur, with grinding certainty;
“I can, I can, I can…”

“Why, you said,” cried the girl, “that you were much weaker than me.”

“So I am weaker than you,” said Arthur, in a voice that went vibrating through everything, “but not just now.”

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