チェスタトン「マンアライヴ」一部五章第159回

「僕が鞄をとってくるよ」スミスは言ったが、それは数時間ぶりに聞く声であった。その声はかすかに聞こえてきたが、無礼なところもあって、たしかに彫像が話しているかのようだった。

 不動の姿勢をとっていた彼のまわりで、長いあいだ踊ったり、論じたりしていた人々は、あわてふためく彼の様子に呆気にとられていた。彼は跳びはねながら駆け出していき、庭から通りへと出て行った。地をけりあげ足をふるわせると、彼はもう馬車の屋根の上にいた。御者は馬の頭の傍らに立っていたが、馬の首にかけてあった飼葉袋がからになったので、そのとき外そうとしていているところだった。スミスはしばらくグラッドストーンの鞄を抱えたまま馬車の屋根の上で転がっていたらしい。だが次の瞬間、運のいいことに、彼は後部座席に転がり込んだ。すると馬が耳をつんざくような、甲高い声をあげ、飛ぶように通りのほうへと疾走していった。

 

“I’ll get the bag,” said Smith, speaking for the first time in hours; his voice sounded remote and rude, like the voice of a statue.

Those who had so long danced and disputed round his immobility were left breathless by his precipitance. With a run and spring he was out of the garden into the street; with a spring and one quivering kick he was actually on the roof of the cab. The cabman happened to be standing by the horse’s head, having just removed its emptied nose-bag. Smith seemed for an instant to be rolling about on the cab’s back in the embraces of his Gladstone bag. The next instant, however, he had rolled, as if by a royal luck, into the high seat behind, and with a shriek of piercing and appalling suddenness had sent the horse flying and scampering down the street.

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