チェスタトン「マンアライヴ」一部五章第172回

「そこにいるのは誰だ?」アーサーは叫んだ。「何者だ? イノセントなのか?」

「イノセントではないというわけではないが」葉っぱのあいだから、不明瞭な声が答えた。

「かつて君をペンナイフで脅かした者だよ」

 庭の風が吹き寄せられ、勢いを増しながら、木を前後にゆさぶり、その中にいる男も一緒にゆさぶり、まるで彼が初めてやってきたときの、陽気で、黄金色に輝いていた午後のようであった。

「では、スミスなのか?」イングルウッドは激情にかられ訊ねた。

「それに近い者だ」ゆれる木から声がした。

「でも、なにか本当の名前があるにちがいない」イングルウッドは自暴自棄にかられながら金切り声をあげた。

「なにか名前はあるんだろう?」

「なんとでも名前をつければいい」くぐもった声がとどろき、木をゆらしたので、何万枚もの葉が一度に話しているかのようだった。

「わたしの名前はローラランド・オリバー・イザヤ・シャルルマーニュ・アーサー・ヒルデブランド・ホーマー・ダントン・ミケランジェロ・シェークスピア・ブレークスピアー」

「なんだと、冗談じゃない(マンアライヴ)」イングルウッドは憤りにかられながら言いはじめた。

「それだ、それだよ」左右にゆれる木から唸り声がしてきた。「それが僕の本当の名前なんだ」そして彼が枝を一本折ると、秋の葉が一枚、二枚ひらりひらりと、月を横切っていった。

 

“Who is there?” shouted Arthur. “Who are you? Are you Innocent?”

“Not quite,” answered an obscure voice among the leaves.
“I cheated you once about a penknife.”

The wind in the garden had gathered strength, and was throwing the tree backwards and forwards with the man in the thick of it, just as it had on the gay and golden afternoon when he had first arrived.

“But are you Smith?” asked Inglewood as in an agony.

“Very nearly,” said the voice out of the tossing tree.

“But you must have some real names,” shrieked Inglewood in despair.
“You must call yourself something.”

“Call myself something,” thundered the obscure voice, shaking the tree
so that all its ten thousand leaves seemed to be talking at once.
“I call myself Roland Oliver Isaiah Charlemagne Arthur Hildebrand
Homer Danton Michaelangelo Shakespeare Brakespeare—”

“But, manalive!” began Inglewood in exasperation.

“That’s right! that’s right!” came with a roar out of the rocking tree; “that’s my real name.” And he broke a branch, and one or two autumn leaves fluttered away across the moon.

 

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