隙間読書 徳田秋聲「足迹」

「足迹」

著者:徳田秋聲

初出:1910(明治43)年読売新聞

青空文庫

 

落ちぶれていく両親と共に状況してきた少女「お庄」が成人、いろいろ恋愛騒動のあと結婚、また婚家から逃げ出す十年間を描いた小説。

先日、泉鏡花記念館でのトーク「1907年の秋聲と鏡花―文学の二筋道」を聞いたとき、講師の大木先生が「『足跡』から、秋聲は目の前のものをリアルに書くことから重層的に時を重ねていく作品に移行する」と言われていたので読んでみた。

たしかに何故ここに此の文が?という箇所がある。

恋人、横野が目の前で他の女に手紙を書いている場面。

「半分ほど書くと、お庄はまたべったり墨を塗った」

この一文と前後のつながりがよく分らない。前では、嫉妬にかられてひったくっているから、嫉妬にかられて墨を塗ったのだろうか? では半分ほど書いたのは誰? 次の文では「女は手紙で呼び出され」とあるではないか? 誰が誰だか分からなくなるような実験的な書き方なんだろうか? 分からない。でも秋聲について語ってくれそうな方もなく…。

 

秋聲の書き方で気になったのは「にやにや笑った」という表現が多い。この作品だけでも六回もでてきている。「母親はにやにやした顔で二人を見迎えたが」という感じ。どうも「にやにやした」は違和感がある。

鏡花の笑い方の書き方も決まっていて「莞爾した」を多用していた記憶がある。「莞爾」なら人格まであらわれる書き方ではないから多用しても気にならないが。

 

当時の冠婚葬祭のありさま、今と同じくボロ株を買って財産をなくしていく人たち、当時の社会の様子をながめる小説としても面白かった。

読了日:2017年8月9日

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