隙間読書 グラディス・ミッチェル「月が昇るとき」

「月が昇るとき」

著者:グラディス・ミッチェル

初出:1945年

晶文社

読書会にむけて疑問をいろいろメモ。「月が昇るとき」読書会は日比谷図書館にて9月24日午後1時半より。

以下はネタバレあり。

 

1⃣ 動機についての疑問

 

・ミセス・コッカートンが若い女性を憎み、標的にした理由は何か? 本当に金だけの問題であったのだろうか? 憎しみの裏には愛があったのでは? ふりむいてもらえない腹いせに凶行におよんだのでは?

 

・76頁「あの人が死んだ女給をベッシーって呼んだのに気がついた? 殺された人の名前はルビーじゃなかったっけ?」

―次に殺す予定の女の名前を間違って言った訳ですが。でも狂気の人ミセス・コッカートンが計画殺人を企てていたと考えるのは無理なのでは?ここで名前をだして仄めかすのは速すぎるのでは?

 

・被害者の女性たちがすべて労働者階級なのはなぜか?日本の小説なら、もう少しいろいろなクラスの被害者を混ぜそうな気がするが。

 

2⃣ 内容についての質問

 

・具体的に地名が何度も繰り返されながら、地図がないので読者の頭にはいってこない。これはずるいのでは? 英国のひとはこの町が思い浮かぶのだろうか?この町の地図はどうなるだろうか?

 

・この兄弟たちは労働者階級か?

241頁「いつものサンドイッチではなく、学校の給食を食べた。美味しかったが、量が物足りなかった」

At lunch time I had the school cooked dinner instead of my usual sandwitches. It was good, but not enough.

ーなぜ、いつもサンドイッチなのでしょうか? 日本の高校では、給食をたべるお金を払えない生徒はパンをかじっていますが、イギリスでは給食はどうなのでしょうか?

 

・28頁の男は何者か?

 

・57頁「トレードマーク」とは具体的にどのようなマークだったのでしょうか?

 

・66頁「その奥」とは?情景がうかびません。

 

・71頁「あたくしと仲良しのシーブルック警部が、なぜこんなことを許しておくのかわかりませんね」

I cannot think why my good friend Inspector Seabrook allows such things to go on.

ー嫌味か?シーブルックは、別の箇所では別のひとから友達呼ばわりされていたが、どういう人物か。

 

・ミセス・コッカートンは二年前から町にいたのですよね?でも、以前は殺人事件をおこさなかったのはなぜ?

 

・ミセス・コッカートンは別に屑屋と結婚する必要性はないのでは?「うちの下宿人は、宿代を踏み倒して逃げた」と言ったほうが自然なのでは?

 

・ミセス・コッカートンは狂気の人だから…という設定は怪奇物としては趣があって面白いが、ミステリーとしてはアンフェアなのでは?

 

・屑屋に殺されたのか、ミセス・コッカートンに殺されたのか曖昧な気がしますが。

キースたちは屑屋だと断定、でもミセス・ブラッドリーは「フィッシャーと確認される(?)」305頁と疑問符をつけて最後まで曖昧です。

小説としては面白いのですが、誰が犯行におよんだかということがはっきりしない終わり方はミステリとしてはすっきりしないのでは?

 

・313頁「ダニーはほんとはアンナを愛していたけど、それを隠すためにマリオン・ブリッジズに気があるふりをして」とあるが、それならマリオン・ブリッジズの赤ん坊の父親は誰なのか?という疑問が残る。妊娠しているという設定は不要では?

 

・最後、キースたちをおとりにする場面はスリリングではあるが、やはり不自然なのでは?他に終わらせ方はなかったものだろうか?

 

3⃣ 訳についての疑問

とても読みやすい感じがした。

地名や場面描写のところだけ訳が読みにくい気がした。地図もないので訳者も頭に情景を思い浮かべるのにご苦労されたのでは?以下は、訳が分かりにくかったところ。

訳引用は「月が昇るとき」好野理恵訳(晶文社)

1章

・13頁 骨董屋 ( the antique shop )と15頁 古物屋 ( junk shop )と使い分けているのは?

古物屋では意味がよすぎるのでは?

・14頁 分かりにくいような、意味が少し違うような気もしますが。

「大通りは川と平行に走っていた。そして十本ほどの路地がこの道から分かれて、船着き場や川岸に通じていた。そういう路地には曲がって他の路地に出るものもあったがたいていの場合、小さな古い家々や、厩舎や、製粉所や、修理工場や、鍛冶屋や、そのほか、ロンドンへの出口となっている、壜の口のように細く交通の激しい通りの背後に隠されたさまざまなものをひとたび通り抜けると、勇敢な探検者は川岸に出て、ぼくたちの町の小さな動脈となっている船着き場とロンドンの間を往復する荷船が、目の前を曳き舟に曳かれて通っていくのを目にすることになる」

The high street ran parallel with the river, and a dozen alleys led from the road to the docks and riverside. Some of them bent to meet others, but for the most part, once past the small, old houses, the stables, the mills, the repair shops, the smithies, or whatever there was tucked away behind the stream of traffic which congested the narrowest bottle-neck out of London, the intrepid explorer found himself on the river front past which sailed the barges drawn by tugs on their way between London and the docks of our little artery of a town.

15頁 こういう解釈でいいのでしょうか?少し乱暴にまとめすぎていませんか?

「ぼくたちがそこへ行くことはめったになかったけれど

Although we went down there but seldom

15頁 分かりにくいような気がしますが。

「しかし、その路地といい、曳き船道といい、ロックといい、上げ潮から守るための高い敷居がある小さな家々といい、気の荒い犬たちといい、使われなくなった荷船と古い老朽化した底開き船の船溜りといい、オールド・イングランドが、ぼくたちの町の他の場所とはかけ離れていて、まるで外国のようで、独自の魅力と危険に満ち、独自の習慣と行動の掟を持ち、さらに罵りや感嘆や祈りの言葉に関しては、風変りな独自の方言まで持っているという事実は、やはり目立って重要なことであった。

The fact remained significant, however, was that Old England, its alleys, its towing path, its locks, its little houses with their high door-sills to keep out the flood tides, its rough dogs, its village of disused barges and ancient decrepit hoppers, was a place apart from all the rest of our town, a place like a foreign country, having its own fascination and danger, its own code of laws and behavior, even its own strange patois of oaths, exclamations and prayers.

16頁 「イネスさん」「サイモン・イネスさん」になりますか? ミセス・コッカートンのおかしいところを少し仄めかしているのでは?

17頁 骨董品だったのでしょうか?

「ぼくたちのことを好きなのは、ぼくたちが評判のいいものを愛しているからだと言うのであった。自分の骨董品のことを言っていたのだと思う」

We loved those things which were of good report. I think she referred to her antiques.

2章

25頁 分かりにくい。方向、位置の正確さが求められるミステリと翻訳の難しさでしょうか。

「テイラーさんの原っぱは、ぼくたちの家からわずかに北寄りの西お方角にあり、マナー・ロードのはずれに位置していた。道路に面した側は太い木の柵で囲われ、ポプキンスンさんの屋敷との間は淡い色調の赤と黄色の高い煉瓦塀で仕切られ、西の端の斜面を下ると、ぼくたちがよく行くブレント川だった。この小川は大通りの南側でワイデン川に注ぎ込んでいた。」

Mr. Taylor’s field was west of our house and slightly north of it, out on the Manor Road. It was fenced with thick wooden railings on side which faced the road, was divided from Mr. Hopkinson’s house by a high brick wall of mellowed red and yellow, and on the extreme west sloped down to our little River Bregant, which flowed into the Wyden on the south side of the high street.

26頁

「女曲馬師が投げキスをしたり、早駆けするアラブ馬の背中で片足立ちをしたりするとき、性悪だけれどもロマンティックなぼくたちの心は聖なる愛に燃えるのであった。」

It was our black but romantic hearts which burned with holly love when the equestrienne blew kisses, or stood on one foot on her galloping Arab steed.

「超人的な喜び」

But this particular evening of Holy Thursday was not the appointed time for these more than human joys

27頁

「邪悪で利口そうな小さな目」

….their wicked, intelligent little eyes

34頁 そんな大きい家か?

「食器洗い場の屋根」

Scullery roof

37頁 家庭菜園より、もう少し侘しい感じでは?

「家庭菜園」

Allotments

38頁 シルエットを見たのであって姿は見ていない…という意味で作者は書いているかもしれないから、もう少し丁寧な訳でもいいのでは?

「一人の男のシルエットがぼくたちの目に入った」

We saw the silhouetted figure of a man.

3章

46頁 分かりにくい

「ぼくたちはブレガント川の河口のひとつを渡った。そこでは川は分岐した運河と並行して流れていたが、間を隔てる狭い関門は、船を通すためではなく、ただ水量を調節するためのものだった。それから橋をふたつ渡らなければならなかった。橋を渡ってしまうと、使われなくなった底開き船や荷船が集まるふたつの船溜まりの間の小道を走り抜け、〈醸造所の呑み口〉亭という小さなパブを過ぎて、キャサリン・ホイール・ヤードに入った。この路地は大通りに通じていて、まもなくぼくたちはハーフ・エーカーを北に向かってテイラーさんの原っぱへと歩いていた」

We crossed one of the mouths of our little river, as it ran beside the canal which had been cut from it, by means of narrow lock gates which were not used for boats but only  to regulate the water. Then we had to cross two bridges. Once across these we ran up a  narrow path between the two basins where there was a village of disused hoppers and barges, and came past little public house called the Brewery Tap and into Catherine Wheel Yard. This alley led up to the high street,  and very shortly we were on our way up the Half Acre to Mr.. Taylor’s field.

4章

56頁 「女綱渡り師の死」 原文にない女という情報をくわえるのはいかがか?

The death of a tight-rope walker

58頁 「とにかく死因審問は犯人のものと確認できる証拠が挙がるまで延期されるはずだ」

↑「身元が確認」と考えられないか?

Anyway, the inquest is bound to be adjourned after evidence of identification.

67頁「あたくしがもっと若かった頃」

↓「犯人は男、あたしは女」と強調したいのでは?女をいれたほうがよいのでは?

When I was a younger woman

69頁「お互いの話を教えあいっこしましょうよ」

↓マザーグースあたりから来ていそうな不気味な表現なのではという気がするが?

story for story

6章

88頁「ジューンが何か繕いものをし、クリスティーナがその晩、ダンスパーティに穿いていく片方のストッキングの上に開いた小さな穴をかがり

June did some of the mending, Christina darned a tiny hole in the top of one of the stockings she was wearing at a dance that evening,

―訳文だと主語が不明瞭なのでは?

94頁「すごく汚いんだから」

It’s very dirty.

―すごく汚いことになるから…という意味で少し違うのでは?

7章

112頁

「『悪い人じゃないって、あたしにはわかってるの』

その言葉で、充分な動機があればジャックがやった可能性もあるとジューンが思っているのがわかった」

“I know he he isn’t bad.”

So we knew she thought he could have done it, had there been motive enough.

―文と文のつながりがよく分らない。

116頁「自然な口調を心がけながら、ジャックはぼくにこう言った。

Jack said to me, trying to speak carelessly.

8章

129頁「わたしが考えているのは自分のことなの、あなたのことじゃなくてね」

It’s me I’m thinking of; not you.

131頁「その先には、数軒の小屋と石炭のぼた山があり、そこが曳き船に引かれる荷船のための埠頭になっていった。

At the end of it there were sheds and a dump of coal, for it marked a wharf for barges drawn by tugs.

9章

150頁「でも彼女には軽はずみなところがあった」

She was impulsive, though,

154頁「その老婦人が、ほかの品物と一緒にトレーに山と積まれている、文鎮や真鍮のドアノッカーや壊れた扇子や、中古の煙草入れや蝋燭の芯切りをつまみ上げ、そのあと、大きな目のある顔を持つ、縞模様や点が施された小さな物体のところに戻るのを見ていた

We watched whilst the old lady picked up the paper-weights, brass door-knockers, broken fans, second-hand cigarette cases and candle-snuffers, which, among other objects, were heaped on the tray, and then returned to a small object striped and pointed, having a face on it with a very large eye.

156頁「この子たちに売っておやりなさい。そうしたら、わたしがすぐに買い取りますよ」

Sell it to them, Mrs. Cockerton, and I I shall make an immediate repurchase.

162頁「水泳するお金はないぞ」とぼくは言ったが、(もちろん、ぼくたちが自分の息子を連れてどこへ行くのか知らないまま)ジェーンは気持ちよく六ペンスくれた。

―意味がずれているのでは?

“No money to go swimming,” said I. But (not knowing, of course, where we were going with her son)  June came down handsomely with six pence

 

10章

167頁「あらゆる人の名前が挙がり、その中にはこの地方の国会議員の名前もあったが、彼はイースターの間はずっとスコットランドにいたことが(知る人には)知られていて、うるさ型と自称する、この辺の地方紙の編集者は、担当している特別ゴシップ欄で、中傷はやめるようにと人々に遠回しな警告を発しなければならなかった。

 

All sorts of  names were mentioned, including that of our Member of Parliament, but he was known ( by those who know) to have been in Scotland over Easter, and the editor of our local paper, calling himself Gadfly in a special column of gossip which he wrote, had to give a thinly-veiled warning to people not to talk scandal.

 

11章

179頁「しけた横丁」

a low alley

13賞

220頁「ジャージを脱いでネクタイを取り」

Keith took off his jersey and tie, undid his short collar, took off shoes and socks

ー??

 

226頁「一つ一つの家を他から区別する通用口の灯りに照らされた舗道を通るのさえ怖くて」

dreading even the lamp-lighted pavements because of the side entrances which marked off one detached house from another

 

14章

 

244頁「理由は人間の髪の毛の臭いです」

That wouldn’t worry me at all. It was the smell of human hair.

ー唐突感がある文ですが。おかしい人だからなのでしょうか?

 

17章

284頁「今度の橋は、二股道のもう一方が運河を渡る橋でーぼくが最初に選んだ路は船溜まりの百ヤードぐらい手前で、その道と分かれていたのだがー運河を渡ると、その道は曳き船道の一部ではなく、ぼくたちの川の河口にある小さな船着き場を使う人たちの便を図って作られたらしい小道に出る。その橋は狭く、高いところに架かっていた。橋のたもとには急勾配の石のスロープがあり、このスロープには、橋の上までずっと手摺がついていた。その幅広の手摺の端に、あのぼろ屑屋が腰かけていた。」

This time the bridge was that which carried the alternative path—for the path I had selected branched off from another at about a hundred yards from the village of boats—over the canal to a path which was not part of the towing-path but had been made for the convenience, I suppose, of the men who used the small dock at the mouth of our river. The bridge was narrow and high. A stone ramp led steeply up to it, and on other side of this ramp there was a handrail which was continued up to and over the bridge. On the broad end of this handrail the rag and bone man was seated.

ー情景がうかんできません

読了日:2017年9月7日

 

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