2017.10 隙間読書 太宰治『尼』

『尼』

作者:太宰治

初出:1936 年「文芸雑誌」

汐文社文豪ノ怪談ジュニア・セレクション

なんとも不思議な、でも思わず想像してみたくなるイメージが続く短編である。自分では思いつかないようなイメージを思い描く…それもまた小説を読む楽しみなのではなかろうか。

九月二十九日の夜ふけ、僕が襖を開けると尼が立っていた…という設定で始まるこの作品は、襖をあけたところで、主人公の夢がはじまるのだろうか? 夢のなかを歩くような不思議さにみちている。

私は尼を見て、「ああ妹だな」と思いながら、しばらくすると「はじめから僕には妹などなかったのだと、そのときはじめて気がついた」という行きつ戻りつするような不思議さ。

尼が語る蟹のお伽話、尼が寝つくと白い像と共にあらわれた如来、さら像は死んでいて悪臭を放つ。やがて尼の姿は小さくなっていき、『尼』の最後はこう終わる。

僕は片腕をのばし、その人形をつまみあげ、しさいにしらべた。浅黒い頰は笑ったままで凝結し、雨滴ほどの唇はなおうす赤く、めし粒ほどの白い歯はきっちり並んで生えそろっていた。粉雪ほどの小さい両手はかすかに黒く、  松の葉ほど細い両脚は米粒ほどの白足袋をつけていた。僕は墨染めのころものすそをかるく吹いたりなどしてみたのである。

最後までなんとも不思議な作品である。でも、この不思議さが楽しいし、不思議さを語る太宰の言葉も楽しい作品なのだと思う。

読了日:2017年10月8日

 

 

 

 

 

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