チェスタトン「マンアライヴ」二部二章第265回

彼は食器棚からワイングラスをふたつ取り出すと、両方の杯をみたし、そのうちのひとつをもちあげ、乾杯のあいさつをしながら唇のほうに運んだ。

「そんなことをするな」私はさけんだ。「貴腐ワインとか、そうした類のワインの最後の瓶かもしれない。この家の主は、そのワインをとても誇りに思っているのかもしれないんだ。そうした愚かさのなかには、怖ろしいものがあることが分からないのか?」

「これが最後の瓶だと言うわけではない」犯罪者は冷静に答えた。「貯蔵庫には、もっとたくさんある」

「おや、君はこの家のことを知っているのだね?」私は言った。

「知りすぎているくらいによく知っている」彼は答えたが、それは悲しそうな、奇妙なもので、どこか不気味なところがあるくらいだった。「知っていることはいつも忘れようとーそして知らないことを見つけようとしているんだ」彼は杯を一気にあけた。「それに」彼は言い添えた。「彼のためにもいい」

「何が彼のためにいいのか?」

「こうして飲んでいるワインだよ」その奇妙な男は答えた。

「では、彼もたくさん飲むのかい?」私は訊ねた。

「いや」彼は答えた。「私が飲まなければ、彼も飲まない」

「君が言いたいのは」私は言った。「この家の持ち主は、君がすることをすべて承知しているということなんだね?」

「神は妨げられた」彼は答えた。「それでも彼は、同じことをしないといけない」

 

“He set out two wineglasses from the cupboard, filled them both, and lifted one of them with a salutation towards his lips.

“`Don’t do it!’ I cried. `It might be the last bottle of some rotten vintage or other. The master of this house may be quite proud of it. Don’t you see there’s something sacred in the silliness of such things?’

“`It’s not the last bottle,’ answered my criminal calmly; `there’s plenty more in the cellar.’

“`You know the house, then?’ I said.

“`Too well,’ he answered, with a sadness so strange as to have something eerie about it. `I am always trying to forget what I know— and to find what I don’t know.’ He drained his glass. `Besides,’ he added, `it will do him good.’

“`What will do him good?’

“`The wine I’m drinking,’ said the strange person.

“`Does he drink too much, then?’ I inquired.

“`No,’ he answered, `not unless I do.’

“`Do you mean,’ I demanded, `that the owner of this house approves of all you do?’

“`God forbid,’ he answered; `but he has to do the same.’

 

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