2018.06 隙間読書 島田荘司「夜は千の鈴を鳴らす」

初出:1988年11月 光文社カッパノベルズ

まずタイトル「夜は千の鈴を鳴らす」がいい。哀しみが漂うような、不安にみちているような、それでいて美しい…読んでみたくなるタイトルである。

鉄道のトリックも、高木作品ではよく考えてみると不明だった車両への忍び込み方、線路の配置を細かく考えている。高木作品の影響をたぶん受けているのだろうが、高木作品よりもトリックを深めようとしている姿勢もいい。

登場人物、鬼島政子の上昇志向が強い人物像も、新幹線が開通したり、オリンピック放送に人々が夢中になる様子も1964年という時代設定だからこそ。失われつつある昭和の風景を伝えてくれる風俗小説としても読み応えがある。

以下の文は鬼島政子の目から見た新幹線の工事の様子である。この時代を生きた作家だからの文だろう。

毎日歩いている幸田駅までの道を上空で横切って、ある日コンクリートの高架線の工事が始まった。それは東京からやってくる夢の超特急の工事だった。ずいぶんして、それを知った。

子供の頃から見慣れている東海道線のレールとは、それは見事なくらい違った。一人の田舎娘を拒絶するように、レールは遥か上空にあった。都会の匂いに直結しているはずのその夢の鉄道は、まさに政子の憧れの高みに位置した。

ただ鬼島政子に近づいてくる草間宏司の人物像は少しぼんやりしているような気もする。なぜ鬼島が惹かれたのか、彼女ほどのやり手が草間の意図に気づかないのは不自然ではないだろうかと疑問も少々。

光文社文庫の表紙もあまりに生々しいのではないだろうか。タイトルが「夜は千の鈴を鳴らす」と詩情あふれるものなのだから、表紙もそれにふさわしいものなら…もっといいのにと思いつつ頁を閉じる。

読了日:2018年6月10日

 

 

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