2018.06 隙間読書 野尻抱影「三つ星の頃」

北宋社刊行

野尻抱影は、早大英文科時代に小泉八雲から指導をうけ、英国の怪談や幽霊、心霊現象に関する本の翻訳をした。

水野葉舟と共に「日本心霊現象研究会」を創設。お化け道を歩むかと思えば、40歳を過ぎた頃から星の和名収集をはじめ、最後は五島プラネタリウムの理事をつとめ、星に関する本もたくさん書いた。

「三つ星の頃」の初版は大正15年11月25日。本作品以外に十篇が収録されている。野尻自身が、お気に入りの作品を選んだとのこと。

「三つ星の頃」は、野尻自身の病床体験と肉親を失った思い出をからませて、第三者の視点で書いた短編。自身の体験からだろう、病気が回復してくる様子や星の描写が克明に記されている。

十四歳の少年、俊輔が病から奇跡的に回復していくときの感覚の移り変わりも、体験した者ならの説得力である。

しかし、その俊輔にも、あの日から以来、身体に力の復(もど)って来るのが、まざまざと意識されて来た。重湯と牛乳が咽喉を通り始めると、五燭の電球の線がありあり見え出した。昼と夜の区別がはっきり分かって来た。夜が長く、朝の来るのが待遠(まちどお)で堪らなくなった。これまでは目も呉れなかった見舞の黄菊の鉢植や、西洋種の切花が、美しく眺められるようになった。時々交代する看護婦の顔が、珍しく見比べられるようになった。こういう意識は、俊輔にも、さすがに嬉しくてならなかった。


 

星への俊輔の思いは、野尻自身の思いだろう。

(今年もオリオンが来た、矢張り同じ形で)俊輔はもう一度胸の中に繰返して、その一糸乱れぬ美しい星座を眺めた。

(矢張り同じ形だ。いつでも同じ形だあの三つの星の間隔はいつだって変ったことはない。「何千年経っても人間の眼には変って見えないのだ」と、兄さんは仰有った、人間の世の中は間断(しっきり)無しにかわるのに。僕だって春の時の僕と今の僕とは違う。こうやってひとりぼっちで病院に入って、痩せっこけて、白い寝台に寝ているんだ」


幽霊から星へと興味を転じた野尻抱影、他の十篇も読んでみたいと思いつつ頁をとじる。

2018年6月23日読

 

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