2018.09隙間読書 Lovecraft “The Alchemist”&ラヴクラフト「錬金術師」大瀧啓裕訳

ラブクラフトが18歳のときの作品を原文と訳の両方で読んでみた。

原文はネット上に公開されているもの。

訳はラヴクラフト全集7に収録されている(東京創元社)


古城にひとり暮らす90歳の伯爵アントワーヌ。先祖が六百年前に錬金術師を殺したため、伯爵家は錬金術師の息子に呪われてしまう。代々32歳になると伯爵家の跡継ぎは死んでしまう。だがアントワーヌは闘いをいどみ…という英国怪談の要素も感じられる作品。


90歳の老伯爵アントワーヌの一人称で語られる短編なので、城の描写や錬金術師の描写はさほど細くは語られていない。これが三人称視点での語りならもっと描写が細かくなり、さらに雰囲気のある短編になったように思う。

でもアントワーヌの一人称での語りだから、錬金術師との戦いも臨場感あるものになっている。そして最後、錬金術師の呪いに勝った筈のアントワーヌの老後がなぜか寂しそうな様子も印象に残る。

本作品はたしかラヴクラフトの第二作めになる作品。当時、ラヴクラフトは18歳の若さ。最初の三段落は古城の雰囲気をだそう、伯爵らしさをだして遠回しな表現…にするなど青年ラヴクラフトの意気込みを感じた。


たとえば冒頭の文。

High up, crowning the grassy summit of a swelling mound whose sides are wooded near the base the gnarled trees of  the primeval forest, stands the old chateau of my ancestors.

「麓近くの山腹が原生林の節くれだった木々に覆われている。なだらかに隆起した小山の草深い頂きを高だかと飾るように、我が祖先たちの古い城が建っている」大瀧啓裕訳

雰囲気をだそうとして書いているラヴクラフトの気合いを感じる書き方だから、その気合いの流れにしたがい、ラヴクラフトが思いついた順に訳を考えてもよいように思う。そうすれば頭にラヴクラフト青年が見ていた景色がうかんできそうな気がする。

そこで意味のまとまりで切って、その部分だけの意味を記してみた。これに語を足してうまくつないだら、青年ラヴクラフトの脳内風景が浮かんではこないだろうか?

High up,(高く)/ crowning the grassy summit of a swelling mound (そびえる山は草深き頂きを飾り)/ whose sides are wooded (山腹には森がしげり)/ near the base (麓近くには)/ the gnarled trees of  the primeval forest, (節くれだった木々がひねこびる原生林)stands the old chateau of my ancestors.(わたしの祖先たちの古城が建っている)


貧しいのに、貴族らしく勿体ぶって貧しさを語る場所も、ラヴクラフト青年の伯爵らしく語ろうとする気合いを感じる文。

A poverty but little above the level of dire want, together with a pride of name that forbids its alleviation by the pursuits of commercial life, have prevented the scions of our line from….

「赤貧洗うがごとしの困窮が、商業に携わって貧困を和らげるのを禁ずる家名の矜持とあいまって」大瀧啓裕訳

この箇所も、英文の意味のまとまりで考えてみた。伯爵らしく遠回しな表現で語ろうとする思いが感じられる気がする。

A poverty but little above the level of dire want(食べていけないほどの貧困に), together with a pride of name (家名の誇りもあって)that forbids its alleviation (貧を軽くしていくことも禁じられているから)by the pursuits of commercial life(商いに手を出すこともできず), have prevented the scions of our line from….(われわれの一族は…することもできないでいた)


ラヴクラフトの青年時代のこの気合いが、いつ頃から作品に結晶しはじめるのか、いつからラヴクラフトの世界に変わるのか…他の作品も年代順に読んでみたい、大瀧氏のおかげでほぼ全作品が読めるし…と感謝しつつ頁をとじる。

2018/10/2読

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