2118.10 隙間読書 相川英輔「雲を離れた月」

以下の四篇が収録されている。

「雲を離れた月」

「ある夜の重力」

「7月2日、夜の島で」

「エスケイプ」


「雲を離れた月」

放課後の教室で秀才の源、おたくの島田、乱暴者の日隈、美少年でおだやかな酒見の四人が御狐様をする羽目に。御狐様は「二十歳までにこのなかの三人が死ぬ」と予言する。そして予言どおりに不可思議な出来事が…。

つきとめようと調べるうちに源は、酒見に再会。だが…。

年月とともに変わってしまったもの、失われてしまったものの多さ、とりわけ美少年酒見の変貌ぶりに悲しみの第一波がおしよせる。でも最後の場面で酒見がみせた優しさは昔と変わらず…いろいろあったけれど、この優しさは変わらないと思うと、悲しみの第二波、第三波がおしよせる。

ただ冷静な源の目をとおして物語をみることで、悲しさに流されない強さも伝わってくるように…。

御狐様のやり方が細かく書かれている点も、私のやったものとは違うようで地域性もあるのだろうかと興味深く読んだ。

2018.10.18読了


「ある夜の重力」

「雲を離れた月」と同様に顔に対する脅迫観念?に悩む男がでてくる。「雲を離れた月」の登場人物は顔の火傷が完治しているのに傷があると錯覚し続けるが、「ある夜の重力」の登場人物、榊は妻「春」のまえだろうと、友人「光安」の前だろうと、常に鼻から上をおおう仮面を被っている。顔をおおうことで安心を得るのである。

顔に対する脅迫観念にとらわれている登場人物を、「雲を離れた月」「ある夜の重力」とつづけて登場させている点に興味がひかれた。作者にとっても、私たち読者にとっても顔は社会との接点。その接点のゆがみ具合を顔にまつわる脅迫観念で、形を変えてあらわしているところが面白い。

面白いと言えば、結末も…。こういう結末には、初めてお目にかかる気がする。一瞬、唖然としてしまいながら、これで登場人物が救われてほしいと願う。いや、そうでもしないと救われないかと絶望的な気分にもなる。

家庭教師先の女の子との出会いと別れを絡めつつも、根底を流れるのはどう世と対峙すればいいのかという戸惑いと不安なのだろう。第三篇では、何がでてくるのか楽しみである。

2018/10/19読了


「7月2日、夜の島で」

不動のものだと信じ込んでい誕生日があっさりと失われてしまう不条理さ、当たり前だと思っていた世界がガラガラと崩れていく不思議さ…に、この作品の結末はどうなるのだろうかと期待半分、恐怖半分で読み進める。

前の短編「ある夜の重力」の結末での驚きを思い出し、作品途中でこんなに驚いていたら、結末ではどうなるのだろうかと不安にかられる。

「雲を離れた月」では変わりゆく人間関係、変わらない人間関係の悲しみを、第二作では常に仮面を被らないではいられない主人公に社会と向かい合う不安を感じた。第三番目の「7月2日、夜の島で」は何が待ち受けているのか?

最後に待ち受けていたのは、不安をのりこえたむこうにある爽やかさ…そのひとときをを私も楽しむ。

あと残るは一篇。どんな感情のこもった短篇が待ち受けているのか楽しみである。

2018年10月22日読了


「エスケイプ」

アメリカの広大なとうもろこし畑に隠れ、ホームステイ先の極悪ファミリーから逃れようとしている…という悪夢のような出だしにびっくり!

そして途中で助け、励ましてくれる者?物?ワイズマンの出現にびっくり!まるで抽象絵画を小説にしたような驚きが続く。

そして最後、一粒の種からの芽生えが救いとなる場面はジャックと豆の木の伝説を思わせるようでもあり、新たな旅立ちを予感させるようでもあった。


「雲を離れた月」は、各短編が一見つながりがないようでいて、実はテーマがつながっている。読んでいくうちに、本のはなつメッセージが悲しみから希望へとかわっていく。失われていくものから、社会との接点である顔の不機能へ、そして当たり前だけど大切なものが失われる不条理を描き、最後はジャックと豆の木のような巨木にのって新たな旅立ちへとむかう。

相川英輔氏の作品は、世界中どこの国でも受け入れられるような不安感、不思議さを描いていると思う。氏の作品が英訳され、世界中の国々で読んでもらえたら素敵なのに…と思う。

2018年10月23日読了

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