2018.10 隙間読書 小松左京「女狐」

「夜の声」収録(集英社文庫)


文楽「芦屋道満大内鑑」の予習をかねて、この古典をアレンジした小松左京「女狐」を読む。

天体気象学を研究している阿部康郎は、大阪の山で動物を研究する楠原葉子という娘と出会い恋におちるが、二人は安倍晴明と葛の葉の末裔であった。

二人の師である研究者同士の争いも、かつての歴史上の争いの因縁から生じたもの。

阿部は幻覚剤をのまされ、自分のDNAに刻まれた遠い先祖の記憶を思い出していく。そんなふうにして過去の記憶がよみがえってくる状況を小松左京はこう説明する。安倍晴明がでてきながら、どこかSFらしいという魅力。

「だが、その薬は、われわれが覚醒時には絶対見ることのできないパターンを見させてくれるのかもしれない。われわれの意識の深部にあって、ふつうでは絶対よみがえることのない記憶を発動するのかもしれない。あるいは―われわれの遠い祖先からの遺伝情報をになう、DNAそのものに刻まれた記憶を発動するのかもしれない、とさえ思っている、―歴史的記憶というべきものを・・・」

こうして思い出されていく記憶の鮮やかさ、不思議さ、面白さ…。

エロチックであり、魅力的でもある女狐。

安倍晴明をささえる影の一族の面白さ。

ただ安倍晴明をめぐる歴史背景は短編に人物をつめすぎた感があって、理解するのが難しかった。

祖先からうけついだ記憶を思い出していくといワクワク感を阿部と共に体験するという不思議な短編である。小松左京のアンテナは、科学、SF、古典と多方面にむけられていたたのだと思い、この短編を長編に書き直した「安倍晴明 天人相関の巻」も読んでみたいと思いつつ頁をとじる。

2018/10/30読了

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