2019.01 隙間読書 泡坂妻夫「死者の輪舞」

1985年、泡坂妻夫53歳のときの作品。ミステリの輪舞を楽しませてくれるスピーディな展開と同時に、作者・泡坂妻夫の優しい心根を感じる作品だと思う。

作者は自分を反映させている登場人物をひとりくらいそっと忍び込ませているものだと聞く。

「死者の輪舞」で作者・泡坂妻夫の姿が反映させているとしたら、それはどの登場人物だろうか?

わたしは「尾久フサ」ではなかろうかと思う。看護師の手伝いをし、入院患者たちの話に耳を傾けていた優しい老女「尾久フサ」。

そうした優しい視点があればこそ、「死者の輪舞」犯行の動機を考えたのではなかろうか。ただ、その動機に思いをよせると、あまりに切なく暗澹たる思いにかられそうになる。

暗くなりかけた思いを吹き飛ばしてくれるのが、下品で、図々しく鋭い海方刑事のまきおこす笑いである。

切ない動機を語るには泡坂妻夫は心優しく、冷徹に動機を語りつくしていない感もあるが……。犯罪者にあたたかい目をむける……という点は、泡坂妻夫の強みであり、魅力である反面、もしかしたら弱さであるのかもという気もした。

ちなみに同時並行して読んでいる近松門左衛門「冥途の飛脚」でも、「一度は思案二度は不思案三度飛脚。戻れば合せて六道の冥途の飛脚」と犯罪人になろうとする忠兵衛のゆれる心を見事に描いて、上巻が終わりになる。

つづく下巻では「えいえい烏がな烏がな。浮気烏が月夜も闇も。首尾を求めて逢おう逢おうとさ」と何とも不気味にはじまり、「なにかいいことないか」と郭にきた忠兵衛はうわついた他の男と同じだと近松は語る。さらに冷たく「逢おう」を烏の鳴き声「阿呆・アホウ」に引っかけ、幻の夜烏に「阿呆阿呆」と犯罪者になりかけている主人公・忠兵衛を罵らせるという冷淡さ。

なんと近松は主人公に冷たいことか。犯罪者になろとする主人公にきわめて冷淡な近松作品を読んでいるせいか、泡坂作品の犯罪者への優しい視点がひときわ心に残った。ミステリで犯罪者を描くときに必要なのは、近松的冷淡さか、それとも泡坂氏のような共感的視点なのだろうか……とも迷う。

実際の泡坂氏はどんな人柄の方だったのか……ご遺族を招いての3月24日荻窪にて開催予定の「死者の輪舞」読書会でうかがえたらと楽しみである。

2019/01/27読了

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