頭脳の浪費策

ポール・クルーグマン

4月24日 The New York Times

Wasting Our Minds – NYTimes.com

スペインでは、25歳以下の労働者における失業率は50パーセント以上である。アイルランドでは、ほぼ3分の1の若者が失業している。ここアメリカでは、若者の失業率は「わずか」16.5パーセントである。これでもひどい状況だと思うが、事態はさらに悪化する可能性がある。

もう止めてくれって言いたいくらい、多くの政治家が思いつくこと全てをやっている。けれど実際のところ、事態のさらなる悪化を保障することばかりだ。対女性戦争ともいえる言動もしょっちゅう耳にするけれど、たしかに女性への弾圧は現実である。そして今度は対若者戦争だ。上手に言い繕って姿を変えているけれど、これはまちがいなく若者への弾圧だ。そしてこの弾圧は若者に損害を与えるだけでなく、国家の将来にもひどい損害を与えることになる。

ミット・ロムニーが先週テレビ番組に出演したとき、大学生にした助言から考えてみよう。オバマ大統領の「分裂」について非難した後、ロムニー候補は聴衆に言った。「ねらいを定めて撃ったら獲物を取りに行け、危険を恐れるな。それと同じように、教育を受けろ。もし教育を受ける必要があるなら、両親から金を借りてでもだ。それから起業しろ」

この発言を聞いて最初に気がつくことは、もちろん、ロムニーの特徴とも言えることだけど、同情する能力がはっきりと欠けていることだ。裕福な家に生まれなかった学生のことも、父さんや母さんの懐をあてにできず将来の野心に出資してもらえない学生のことも考えていない。その他の部分も、まあひどいものだ。

「教育をうけろ」だと? それなら、どうやって授業料を支払えと? 州からの補助金が削減されたせいもあって、公立のカレッジと大学の授業料は急に値上がりしている。ロムニーはこの解決策について何も提案していない。またロムニーはライアン予算案を強く支持しているが、その予算案のせいで政府の奨学金はばっさり削減されるこtになり、100万人の学生がペル奨学金を失う羽目になるだろう。

では、どうやって家計が苦しい家の若者は「教育を受ける」のだろうか? 3月の話に戻るが、ロムニーは答えをだした。それは「少しでも安く、良い教育が受けられる」カレッジを探せというものだ。なんて、まあ有り難い答えなんだ。摩擦を生じる発言だってことはわかっているけど、ロムニーの言葉は、生い立ちに何ひとつ取り柄がないアメリカ人には役に立たないってことを指摘させてもらう。

さらにもっと大きな問題がある。みんながよくやるように多額の借金の山にはまりこみながら、学生がなんとか「教育を受けた」としてもだ。卒業した先は、学生を欲しがっているようには思えない経済社会だってことだ。

散々聞かされているだろうけど、この不景気の中、大学の学位を持っている労働者のほうが高校卒の労働者よりずっとましな暮らしをしていると言われている。それは真実だ。けれど、中高年の学位をもっているアメリカ人に焦点をあてるのではなく、最近卒業したばかりの青年に焦点をあててみると、話から希望が消えていく。最近卒業した青年の失業率は急上昇しているし、パートタイムの仕事の割合も急上昇している。たぶん大学を卒業してもフルタイムの仕事が見つけられないという状況を反映しているのだろう。フルタイムで働いている卒業生も収入が下がっている。それは、ほとんどの卒業生が教育なんて役に立たない仕事で働かなくてはいけないって兆候なのだ。

大学を卒業した学生たちは今も、国の経済が衰弱しているから仕方ないとばかりに、すてっぱちな態度で仕事に取り組んでいる。けれど調査によれば、物価高は一時的なのものではない。ひどい経済社会のなかで卒業した学生たちは決して失点を回復することはない。それどころか、大学を卒業した青年達の収入では生活が窮乏していくのだ。

若者が今なによりも必要としているのは、もっとましな仕事の市場だ。ロムニーのような輩は、自分たちには雇用創出のレシピがあると主張する。そのレシピの内容ときたら、企業と資産家への課税の削減、公共サービスと貧乏人への支出の削減だ。しかし、こうした政策が不況下の経済にどのように作用するかについては、たくさんの証拠がある。それに削減政策は雇用を創出するのではなく、あきらかに雇用を破壊するだけだ。

それというのも、ヨーロッパの経済の荒廃を見たとき、ひどく荒廃している国のなかにはアメリカの保守派が主張している全ての政策を実行してきた国があることに気がつくからだ。遠い昔のことではないが、保守派はアイルランドの経済政策を賞賛していた。とりわけ低い法人税を賞賛していた。ヘリテージ財団は、他の西側の国より「経済の自由」に関してアイルランドに高い評価をつけていた。状況が悪化すると、アイルランドは再度賞賛をたっぷり浴びることになった。今度は厳しい支出削減についてである。削減により自信がついて、経済がすばやく回復すると思われたのだ。

そして今、私が言ったように、アイルランドの若者のうち3分の1は仕事を見つけられないでいる状況だ。

アメリカの若者を助けるために何をするべきなのだろうか。基本は、ロムニーとその仲間の望みとは反対である。学生への援助は削減するべきではなく、むしろ拡大するべきなのだ。前例のない政府や州レベルでの削減など、アメリカの経済を沈滞させる事実上の緊縮財政を逆にしなければならない。そうした緊縮財政のせいで、とりわけ教育が厳しくなってきているのだ。

そう、政策を逆にすればお金もかかるようになる。でも、こうしたお金の使い方を拒むのは馬鹿げているし、財政用語上からみても近視眼的だ。覚えておいた方がいい、若者はアメリカの未来であるだけでなく、未来の税基盤でもあるのだから。

若者の頭脳を浪費するなんて許し難い。さらに全世代の頭脳を浪費することになる政策なんて、さらに許し難い。こんな頭脳の浪費策は阻止しないといけない。

(Lady DADA訳・B.Riverチェック)

Lady DADAのつぶやき

 「高い学費を払ってアイビーリーグを出たけれど、就職先は△ーガーキング」去年の夏、大学時代の友人から聞いたアメリカの状況が、現実のものとして感じられるコラムです。

 IT化のおかげで便利になったけど、その分、頭脳労働者が不要になってくるということなのでしょうか。クルーグマン教授の言うような緊縮財政の見直しだけでは、解決が難しい問題なのかもしれません。大学教育で学んだ内容を仕事に反映させるという価値観を捨てないといけない時代なのでしょうか。

 そんな時代の空気を感じるのか「大学には行かないで漁師になる」と話す私の息子の考えにも一理あるのかもしれません。アイビーリーグに投資するなら、同じ金額で漁船を買った方が幸せに生きられる時代なのでしょうか。(Lady DADA筆)

 

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