アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.20

怒らせてしまう原因も多少はあったらしい。少年は発達が遅れ、五歳の子供と同じくらいであった。スケルトンはその子を男子校にいれはしたものの、それは何の役にもたたなかった。少年は躾をこばみ、釣りにだけ夢中だった。毎日のように釣り竿をもって田園をほっつき歩いていた。これが複数の目撃者の証言によって明らかになった事実だ。

ついに凶行の日となって、スケルトンは少年を追いかけ、釣り竿が隠してある場所を見つけようと、牧草地から猟場へとすすみ、さらに湖へとやってきた。そこで何が起きたのかを説明するスケルトンの言葉は乱れ、錯乱している。彼の自白によれば、人事不省となった少年の頭と両腕のあたりを重い棒で殴りつけたが、棒はその用途で持ってきたということだ。だが殺すつもりはなかったと否定している。息子が感覚をうしない、息をとめたところで、彼はようやく自分が打ちつけた力に気がついた。でも、直後に感じたのは自らの行いを咎める罪悪感ではなく、我が身の保身を心配する気持ちだったと言っている。遺体を引きずりながら水際のガマのあいだに分け入ると、そこに上手く隠した。夜になって隣人たちが床に入って寝つく頃、彼は星明りを頼りに、干し草用のフォークをひとつ、ロープを一巻き、鉄棒を二本、ナイフを一本携えて、こっそりと家を出た。それだけの荷物を背負いながら原野を歩き、柵をこえて猟場へ入り、ストーンリー方面のフットパスをたどって、三、四マイルほど遠回りした。朽ちかけた古い舟が一艘、湖に係留されていた。彼はこの古い舟をつなぐ縄をほどき、ぐるりと廻すと、遺体をひきずりこんだ。それから舟をこいで、おぞましい彼の荷を湖のなかほどまで運びこんだが、そこは対岸から遠く、目的を果たすのに選んだ葦の茂みと同じくらいに離れていた。彼は死体に重りをつけて沈め、干し草用フォークで首を押さえつけた。それから干し草用フォークの持ち手を切り落とした。釣り竿は葦のあいだに隠した。殺人犯がいつも信じ込むように、発見されることはあるまいと考えた。ピット・エンドの人々には、甥はカンバ-ランドに戻ったと説明しただけだった。そして疑う者は誰もいなかった。

今のところ、たまたま事故になっただけで、自分から罪を自白しようとしていたと彼は言っている。おそろしい秘密に、だんだんと耐えられなくなったそうだ。彼は、見えない者の存在につきまとわれていた。その者は、食卓につくときも一緒、散歩のときも一緒、教室では彼の背後に立ち、寝台のよこで彼を見つめていた。その姿は彼には見えなかったが、いつもそこにいるのを感じていた。ときどき独房の壁に影がみえると譫言をいっているよ。刑務所の責任者によれば、精神状態が不健康だということらしいが。

 さあ、もう君に話せることは話した。裁判は、春の巡回裁判までないだろう。とりあえず、僕はパリにむかう。そして10日たてばニースだ。手紙はホテル・デ・エンペリューズにだしてくれ。

 P.W

追伸

 ここまで手紙を書いたところで、ドラムレーからスケルトンが自殺をはかったと告げる電報を受け取った。詳しい状況は書いていない。これでこの波瀾万丈の奇妙な話もおしまいだ。

ところで、猟苑をとおったときの、君のいつかの幻影はじつに奇妙ではないか。僕は何度も考えた。あれは幻影だったのかと。 じつに不可解だ」

ああ、たしかに! 不可解だ。今でも不可解だ。説明することなんかできない。でも、それはたしかに存在したものだ。疑いようもなく見た。たぶん、心の目で見たのだろう。そしてわたしは見たままに語ってきた。何も抑制していなければ、何もつけ加えることもなく、何も説明はしていない。この不可解な一件は、考えてみたい者たちに任せるとしよう。わたしとしては、ただウォルステンホルムの言葉をくりかえすだけである。あれは幻影だったのかと。 (完)


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