2019.05 隙間読書 三島由紀夫「手長姫」

昭和26年6月小説新潮発表、三島26歳のときの作品。

以下の冒頭部分で、この短編の骨格をよくあらわしている。

金沢家の跡目は、事実上は一人の気違ひ女でもつて絶えてしまつた。彼女は十五年も病院に入つてゐた。病院では、季節の変り目などに突拍子もない凶暴な発作をあらはしたが、それ以外のときは気味の悪いほど大人しい模範囚でとおってゐた。鞠子は神妙に「服役」してゐた。(三島由紀夫「手長姫」より)

やんごとない大家のお嬢様である鞠子にはなぜか盗癖がある。そのため「手長姫」というあだ名がつけられ、学校でも浮いた存在に、やがて逮捕されてしまい婚期を逃す。

ようやく結婚した相手、為保は鞠子の財産目当てだったが、彼女の盗癖に興味をもち、「自分のことが好きなら盗んでみるように」と仕向けていく。為保は愛人、政子を家にいれてしまう。政子は為保の秘密をさぐらせるために、為保は政子の秘密をさぐるために、鞠子の盗癖と純粋無垢な心を利用していく。

やがて政子は鞠子に食事を与えず、ひもじければ自分たちの寝台においてある飯びつを盗むようにと言う。政子が眠る寝台のかたわらで泣きながら鞠子は為保にこう言う。

「捕縛して下さい。あたくしが犯人です」
(三島由紀夫「手長姫」より)

最後の言葉が唐突すぎて分からなかったのだが、考えるうちに大まかな話の流れのなかで冒頭の引用箇所につながっているのだろうかと思った。

政子・為保夫婦の陰湿な仕打ちが次第に鞠子を狂気においつめ、最後の言葉で鞠子の狂気が爆発、犯してもいない罪を妄想して告白してしまったのだろうか?やがては精神病院で「服役」していると思い込むようになったのだろうか?

政子・為保夫婦にみられる悪意、盗みをしつつも純な心を保つ手長姫こと鞠子。悪意に純粋な心がじりじり追い詰められていく過程をみるようで、読んでいると息苦しい気持ちになる作品である。

2109.05.07 読了


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