2019.06 隙間読書 三島由紀夫「朝顔」

1951年、三島由紀夫25歳のときの作品。

『文豪怪談傑作選 三島由紀夫集 雛の宿』収録

『文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション 死』収録

終戦の年の11月、腸チフスで亡くなった妹・美津子の夢を三島はたびたび見たのだと記している。本作品も、亡き妹・美津子をみた夢について記したものである。

夢でみた美津子の浴衣について書いている文が心に残る。暗と陽のコンストラストが鮮やかである。

妹の顔は暗くてよく見えない。着ているものの柄もよくわからない。子供のような浴衣を着て、黄色い兵児帯をしめている。

「どんな柄、見せてごらん」

と私が言った。妹は黙って袖をひろげて見せた。あざやかに大きな紫の朝顔が染めてある。妹が五つ六つの時分に着せられていた浴衣である。

(三島由紀夫「朝顔」より)

なぜ、この朝顔がかくも印象的なのか? 三島の実際の思い出なのかもしれない。また東雅夫氏の註によれば(文豪ノ怪談ジュニア・セレクション「死」)、「夭折した娘と朝顔、そして夢の話といえば、その名も『夢の朝顔』の通称で知られる『兎園小説』(曲亭馬琴ほか編・1825)中の一篇が想起される」とのこと。知らなかった!

そういえば浄瑠璃にも「生写朝顔話」というすれ違いの哀しい物語がある……朝顔は日本文学のなかで大切な小道具なのだなと思った。

可憐な妹さんの夢に心がゆるんだところで最後に怖いどんでん返し。これも東氏の註によれば、エリザベス・ボウエン「魔性の矢」(『英国怪談珠玉集』南篠竹則訳)も似たような趣向の作品のようである。こちらも読まなくてはと思いつつ頁をとじる。(2019年6月7日読了)

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