再訳 サキ『耐えがたきバシントン』№82

「わたしだって気も狂いそうよ」ややしてから、モリーは言葉をつづけた。「でも、やがてこうしたことが起きるってわかっていたわ。政界入りしたひとは、もう自分の好きなようにはできないもの。そうしたひとの心は、やはり人間味に欠けた欲望に支配されるのよ。」

「知り合いの大半は、ぼくにはそんな心がないと言ってくれるだろう」ヨールは言った。

「あなたの知り合いに同意したくなることはよくあるけど」モリーは言った。「あなたときたら、しょっちゅう、どこかに本心を隠すものだから」

「隠せればと思うが」ヨールは言った。「それというのも、ぼくが恋におちかけているという事実を、これから君に叩きつけようとしているからなんだ」

“I shall mind horribly,” continued Molly, after a pause, “but, of course, I have always known that something of the sort would have to happen one of these days.  When a man goes into politics he can’t call his soul his own, and I suppose his heart becomes an impersonal possession in the same way.”

“Most people who know me would tell you that I haven’t got a heart,” said Youghal.

“I’ve often felt inclined to agree with them,” said Molly; “and then, now and again, I think you have a heart tucked away somewhere.”

“I hope I have,” said Youghal, “because I’m trying to break to you the fact that I think I’m falling in love with somebody.”

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