フィネガンズ・ウェイク
1
原文
riverrun, past Eve and Adam’s, from swerve of shore to
bend of bay, brings us by a commodius vicus of recirculation back to Howth Castle and Environs.
コメント
最初にriver runsをriverrunと一語の造語に。時、意識が溶け込んだ状態で発せられた言葉という印象。
Eve and Adam’sで見つめる対象が人間へと変化。
shoreやbayで自然の力に思いを馳せ
comodiusとかrecirculationという造語で人間の営みを語る。
最後のHowthは何か由来があるのか、人間の歴史を語っているようにも。
冒頭一文に、時、意識の一雫から始まって、川となって人や自然を見つめ、人間の営みや歴史にたどり着く……イメージがある
たった一つの文にこれだけ盛り込めるとは……
拙超訳
川迸る。アダムとイヴの街の傍らを過ぎ、蛇行する川辺も通過して、ついに湾曲する入り江に流れこみながらも、循環を繰り返す商都の力で、ホウスの城とその周辺に我らを連れ戻す。
2
原文
Sir Trisrtam, violer d’amores, fr’over the short sea, had passenore rearrived from North Armorica on this side the scraggy isthmus of Europe Minor to wielderfight his penisolate war:
「ホウスの城」からのイメージでサートリストラムが出てきたのかなあ……。penisolateとはpenisolaとpenisの造語なんだろうか……。
short seaも悩ましいけれど、トリストラム伝説のコーンウォールからアイルランドの海かもと。ノース・アルモリカからヨーロッパの海路との比較かも
超訳
サー・トリストラムは数多の愛人たちを手篭めにしては、小さな海を渡り、行きつ戻りつするうちに、やがてノース・アルモリカからヨーロッパ・マイナーの細い地峡にあるこの地にたどり着き、武器を巧みに使って戦うのは、己の半島のためやら、己の一物のためやらか。
3
原文
nor had topsawyer’s rocks by the stream Oconee exaggerated themselse to Laurens County’s gorgios while they went doublin their mumper all the time:
コメント
ジョイスの発想をたどると、前の文の「地峡」から「岩」の話に。非ジプシーというのは普通の人?それで何が言いたいのか?ダブリン云々は、当時の新聞の一説でも思い出して書いたのだろうか……分からないことだらけだけど、ジョイスの発想を想像するのは楽しい。
拙超訳
てっぺんが鋸の歯のような岩石群は、オコネーの流れに削られても、ローマ領の非ジプシーの人々のような姿になることはなかった。それにしても非ジプシーの民ときたら、ダブリンに行っては乞食を倍に増やし続けた。
4
原文
:nor avoice from afire bellowsed mishe mishe to tauftauf thuartpeatrick:
コメント
avoice はa voice、afire はa fire、bellowsed はbellows(ふいご)の造語?、mishe はmishear の造語?、tauftauf はtauf(洗礼)の造語?、thuartpeatick はスチュアート家か不明だけど聖パトリックかなあ……と不明造語のオンパレード。
拙超訳
炎に吹きつけるふいごから漏れる声。聖パトリックだかチュアートパトリックの洗礼をおこなっていたように聞こえたのは、空耳ではないと思えども、やはり聞き間違えていたのかもしれない。
5
原文
, not yet, though all’s fair in vanessy, were sosie sesthers wroth with twone nathandjoe.
コメント
in vanessy はInvernessの造語 城、聖堂、北海マリー湾に注ぐネス川の河口
sosie 瓜二つの
sesthers はsistersの造語
wroth は「怒った」の意味
twoneはtwoness 二重性の造語
twoneは twonk 愚かで思慮のない人の造語
nathan 前10世紀イスラエルの預言者ナタンか。家臣の妻と密通した挙句家臣を殺したダビデを叱責。ダビデの家の不幸を予言。
joe joie 喜び
「よく似た二人の娘」はメアリ2世とアン女王。
預言者ナタンは、家臣の妻と密通した挙句家臣を殺したダビデを叱責。アンは友人の夫の投獄に反対してメアリ2世と決別。
拙訳
インヴァネスではすべてが公平であったけれど、よく似た姉妹たち(メアリ二世と
アン女王か?)は愚かな預言者ナタンの喜びにまだ怒ったりはしていなかった。
6
原文
Rot a peck of pa’s malt had Jhem or Shen brewed by arclight and rory end to the regginbrow was to be seen ringsome on the aquaface.
コメント
peck くちばし ついばみ 斑点状の初期的腐れ
malt モルト、麦芽
brew 醸造する
arclight searchlightの造語か
Shen イギリスの詩人Shenstoneをもじったか?Sheでメアリー・スチュアート
Jhem James イギリス王のもじり?
rory 文無しの意味か? toryroryらんちき騒ぎの造語か?
regginbrow は「regin地域、領土」browはアイルランド方言の「急な坂」?
ringsome 「いくつかの水輪」という造語?
aquaface 海面の造語?
親父の腐りはじめたモルトが腐敗したものだから、ジェム(スコットランド王ジェームズ5世か?)やシェム(スコットランド女王メアリー・スチュアートか?)はサーチライトで醸造されて、急坂の領土目指してのらんちき騒ぎが水面に浮かぶ水輪となってブクブク浮かんできた。
7原文
Rot a peck of pa’s malt had Jhem or Shen brewed by arclight and rory end to the regginbrow was to be seen ringsome on the aquaface.
コメント
ジェムはスコットランド王ジェームズ5世?
シェムはスコットランド女王メアリー・スチュアート?
ここまで歴史のオンパレードだからそういう意図の造語かなあと。
超訳
親父の腐りはじめたモルトが腐敗したものだから、ジェム(スコットランド王ジェームズ二世か?)やシェム(スコットランド女王メアリー・スチュアートか?)はサーチライトで醸造されて、急坂の領土目指してのらんちき騒ぎ。しまいに水面に浮かぶ水輪となってブクブク浮かぶ始末。
8
原文
The fall of (bababadalgharaghtakamminarronnkonnbronnttonnerronntuonnthunntrovarrhounawnskawntoohoohoordenthurnuk!) of a once wallstrait oldparr is retailed early in bed and later on life down through all christian minstrelsy.
コメント
ここで段落が改まる。最初にfallと意味がいくつもありながらも造語ではない語を持ってきた、前の段落は過去形だったがこの段落は現在形と、ジョイスが意識の切り替えを明確に示している気がする。
歴史上の人物とかは誰だか分からないくらいの造語にしてしまうのに、意識の切り替えポイントを明示することを重視していたのかも。
fall は転落、滝の水、次にウォール街がくるから大暴落
wallstrait ウォール・ストリートの造語か
oldparr 鮭の幼魚parrの造語
retail 噂で詳細に話す 小売りにする
minstrelsy ministre司祭の造語か
落ちてゆく……(bababadalgharaghtakamminarronnkonnbronnttonnerronntuonnthunntrovarrhounawnskawntoohoohoordenthurnuk!)
かつてのウォール街の老成した若鮎の転落話は、最初のうちは寝床で語られ、のちにカトリックの司祭をとおして人生について語るネタになる
9
原文
The great fall of the offwall entailed at such short notice the pftjschute of Finegan,
コメント
offwall はoff the wall 「とっぴな、普通でない、狂気
entailed 結果的、必然的に引き起こす
at short notice 急に、猶予なく、直前になって
pftjschute schuteは平底荷船、はしけ、ボンネット風婦人帽、鋤
pschuter (フランス語で)に賛同する、(歓迎の)声を上げる
アイルランドには「フィネガンの通夜」Finegan’s Wakeという民謡があって、梯子から落ちて死んだ筈のティム・フィネガンがウィスキーを浴びて息を吹きかえすという陽気なバラード。
フィンとアゲインとも読めるから、「フィネガンズ・ウェイク」は「フィネガンたちの通夜、あるいは目覚め、あるいは軌跡」とも「フィネガンたちよ、よみがえれ」という響きもあるそう(集英社世界文学大辞典)
超訳
壁から思いっきり転落して、フィネガンは思わず歓喜の声をあげ