サキ 「耐えがたきバシントン」15回  2章

監督室でコーマスは、床の中央に椅子を正確におくことに余念がなかった。

 「すべて手はずはととのったと思う」彼はいった。

 ルートリィは時計に目をやったが、その様子ときたら円形競技場のローマ人のように優雅であり、期待をあつめたクリスチャンが、待機している虎に紹介されるのを待つかのように、意気消沈していた。

 「あと二分で到着するはずだ」彼は言った。

 「優秀でいらっしゃるから、遅れることはあるまい」コーマスは言った。

 コーマスは、学生になってまもない頃、罵られたり、酷評されたりしたことがしょっちゅうだったので、今、この瞬間も運命の犠牲者が、ドアのむこうでおそらく惨めにうろつきながら、感じているにちがいない恐慌状態を、最後の一滴にいたるまで堪能することができた。つまるところ、そういうことが物事の楽しみであり、どこを探すべきか知っていれば、ほとんどの物事には楽しい側面がある。

 ドアをたたく音がしたので、心から親しみをこめて「はいれ」というと、その命令にしたがってランスローが入ってきた。

 「鞭でうたれるために来ました」息をひそめていうと、「僕の名前はチェトロフです」と名を告げた。

 「その態度にも問題がある。だが、さらに問題にするべきことがある。君は、あきらかに何かを隠している」

 「サッカーの練習に参加しそこないました」ランスローはいった。

 「6回」コーマスはそっけなくいうと、鞭をとった。「掲示板の通知を見なかったものだから。」決死隊として行動するように、ランスローは思い切って言った。

 「毎度のことながら立派な言い訳だ、感激するよ。だから、こちらも鞭の回数を二回ふやすとしよう。さっさとやるぞ」

 それからコーマスは椅子を身ぶりで示したが、その椅子は部屋の真ん中にぽつりと、不気味な様子で置かれていた。ランスローの目に、そのときほど家具が憎むべきものに見えたことはなかった。コーマスも、部屋の中央に突き刺すように置かれた椅子が、自分の目にも、最もおぞましい工芸品に思えた時のことを思い出した。

 

 

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