丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー説明のない「書きかけの手紙」「食べかけのミカン」が物語を語るー
十二月三十日「私は隙間風だ」で始まる。まほろ町に駆け落ちしてきた二人(オオルリのバッジをセーターにつけた二人)が借りたあばら家に吹く風である。
以下引用文。そんな二人の生活が立ち現れるような、文である。どこ宛とは書いていないだけに、「書きかけの手紙」が一層気になってくる。親を説得する手紙なのだろうか。
「根拠なき希望がぎっしりと詰まった部屋」で普段の二人の会話が見えてくるようである。
「食べかけのミカン」の存在も、「根拠なき希望」と重なって思えてくる。
食べかけのミカンと
書きかけの手紙のあいだを擦り抜けつつ
根拠なき希望がぎっしりと詰まった部屋を
でたらめに走り抜ける。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」364ページ)
以下引用文。不自由な世一の動きをかくも美しく、この世にある存在の重さを伝えてくれる文だと思った。
そして
累積する矛盾で成り立っているかのような
夢幻的な歩行でさまよう少年に纏わりつき、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」365ページ)